なんだか、重たい。体が痛い。

「ん……あれ?」

目が覚めて、眠ってたことに気がついた。身じろぎしようとしてもできない。動かない体を見て、ぼんやりしてた頭がパキッとさえた。
駿河くんが、私の腰に抱き着いたまま、お腹に顔をうずめて寝てる。
そうだ。私たち泣き疲れて、そのまま床で寝ちゃったんだ。

「ねぇ、駿河くん。起きて」

肩を揺らすけど、全然起きてくれない。
もう一度肩に手をかけたところで、遠くから着信音が聞こえてきた。スマホはたしか、リビングのソファに置いたバッグのなか。体をひねったり、手をつっぱったり、なんとか駿河くんの腕のなかから抜け出して、ふぅふぅと肩で息をしてスマホを取りに行くと、電話は丈司お兄ちゃんからだった。

「う、ううううまれる!」

いきなりの大声に、耳がキーンとした。

「バイトから帰ったら破水してたんだよ、さっき病院に着いたんだけど、マリア痛そうで見てられない……!俺、どうしたらいい?」

「ちょ、ちょっと待ってっ」

そんなこと言われても、私もどうしたらいいのかわかんないよ!とりあえずどこの病院か聞いて電話を切る。今度こそ駿河くんを起こさなきゃ。お部屋に戻って、私は叫んだ。

「駿河くん、大変だよ!」

 
二人で慌てて病院に駆けこんだら、マリアさんの悲鳴と丈司お兄ちゃんの泣き声が廊下にまで響いてて真っ青になった。どうしよう、マリアさんが死んじゃう。
ナースステーションにいた看護師さんに状況を聞いたら、

「百瀬さんは分娩中ですね。予定日より少し早いですけど、問題ありませんよ」

って、のんびり言われた。ほんとに?あんなに苦しそうなのに、大丈夫なの?心配でたまらなくて駿河くんの腕にぎゅっとしがみついた、そのとき。

「なんでこんなに痛いんだよ、丈司のばかああああああ!!」

「うわあああああマリアごめんなさいいいいい!!」

はっきりと聞こえて、看護師さんがクスッと笑った。

「元気なご夫婦ですね」

駿河くんは苦笑いしてる。どうやら、マリアさんは大丈夫みたい。