冬休みの最初の日。
ずっと前から映画を観に行こうって約束してた日。
いつもの待ち合わせ場所、駅の近くのコーヒーショップ。いつものように約束の時間より早く来た隼くんが待ってくれてた。

「今日も寒いね。お昼はあったかいもの食べようよ」

いつもとおんなじ、優しい笑顔。こんなときになって思い知る。数えきれないほど「いつも」って言えるくらい、私たちは一緒にいたんだ。
揺らぎそうになる。隼くんのことだって、私は大好きなんだ。だけど、隼くんへの好きと、駿河くんへの好きは違う。これからも、それが入れ変わることはない。心を決めたの、だから。

「あのね。……私、隼くんに伝えなきゃいけないことがあるの」

罪悪感に負けないように、目をそらさずに言った。隼くんは、意味がわからないって顔で首をかしげる。

「それって、映画より大事なこと?」

うなずくと、少し残念そうな目で見つめられて。

「じゃあ、ゆっくり話せるとこに行こっか。あいりちゃんちは、今日、誰かいるの?」

かなでは、お仕事。たぶん駿河くんも。
そっか。お家なら、誰もいない。どんなにつらいことになっても、みっともない泣き顔を人に見られずにすむ。


マンションに戻ると、一階のロビーでコンシェルジュさんに声をかけられた。

「百瀬様、もうお戻りですか?」

「はい、その、お迎えに行ってただけなので……友だちを」

恋人、って言えなかった。隼くんは物珍しそうに辺りをきょろきょろ見回してて、聞いてなかったみたい。

「さようでございますか。お帰りなさいませ」

丁寧におじぎしてくれたコンシェルジュさんにペコリと頭を下げる。隼くんも気づいて「どうも」ってあいさつしてた。
見るものすべてに興味津々の隼くんは、お家に上がるとますます無邪気にはしゃいだ。

「オシャレなリビングだね!ドラマに出て来そう!」

困ったな。こんなに楽しそうだと言い出しにくいよ。

「とりあえず、お茶入れるね」

「それよりさ。あいりちゃんの部屋、見てみたいな」

「私の部屋?」

「うん。ダメ?」

手を引かれておねだりされて、断る理由もないからお部屋へ案内した。