凛花は小さく息を呑んだ。

「敵が前後にいて、絶体絶命って言う奴ですよね。
 後ろがあの土山を掘る化け物だとしたら、前の狼は……」

「昨日、保健の先生と僕を襲ったあの、赤髪の男だ。
 ついでに、その男は、件のばらばら殺人事件の犯人かもしれない」

 凛花がまともに表情を変えた。

 さすがに、怖いようだ。

 脅かす気はなかったけど、仕方がない。

 今まで凛花は僕に、睨むか、落ち着き払った表情しか見せた事がなかった。

 だから、彼女の怯える表情はすごく新鮮だった。





 なんか、こう……かわいい?





 一瞬、見とれかけて首をふる。

 今はそれどころではない。

 僕は、何か使えそうな物が無いか、辺りを見回した。

 注意深く。

 ボールの詰まったカゴ、跳び箱、マット、グラウンド整理用のシャベル、ライン引き……

 三つある窓から夕方の気配のする光が差しこんでいる。

 照らされた倉庫内に、特に変わった所はない。

 中東部と高等部合同だから、普通の学校の体育倉庫より大きい、と言う所ぐらいか。