……こいつは、人の存在を気にしていないのか?

 人間を素早く丸呑みした土山が、再び動き出す。

 僕と凛花に向かって。


 ……見逃してはくれないか。


 僕たちは、追われるようにして体育倉庫の中に逃げこんだ。

 建て付けの悪い扉をガタピシ閉めて、内側からカギを掛ける。

 すぐに、化け物が閉まった扉を叩く音が聞こえる……かと思ったが。

 ほこりっぽい倉庫に入ったとたん、急に静かになった。

 僕が、体育倉庫に入ってみたかったのは、赤髪の手掛かりを探したかったからだ。

 この中にまで、土山の化け物が入って来ない所を見ると……当たりか?

 本当は、こっそり入って状況を確認するだけのつもりだった。

 しかし、これだけ大騒ぎになったら気づかれるに決まっている。

「ど……どうしたんですか?」

 中に入っても、全く気を抜かない僕の気配を察してか、凛花が僕の袖を引く。

「お前たちの……いや、日本のことわざで、前門の狼、後門の虎って言うやつを知っているか?」

「え……と…」

「今の状況、多分、それ」

「……!」