私は唾を飲み込んだ。
額から、汗が滲み出る。
まだ、そんなに暑くないはずなのに…。
むしろ、涼しいくらいだ。
冷たい風が私の頬を撫でるように吹く。

「貴方…一体」

最後まで言い終える前に、少年は遮るように答えた。

「そうだ…君に、御礼を言うのを忘れていたね。《ありがとう、助けてくれて》」

「私は、貴方を助けた覚えなんか…」
「忘れたの?…さっき言ったでしょ?、《人間になる前》に、会ったことがあるって…」

「………」
私は、信じられなかった。
しばらく黙って考えていた。

もしかして…その助けた相手って…
まさか、でも…確かめられずにはいられない。

「私は、《雀》を助けてあげたのよ」
「そうだよ、僕があの時の《雀》なんだよ」

少年は、自分を雀だと言い張った。
こんなことって、本当にあるのだろうか?
「僕は、窓にぶつかり脳震盪になって気を失った。…目を覚ますと、君は優しく僕に話かけてくれた。わざわざ、タオルも掛けていてくれたよね。本当に嬉しかったよ」

少年は、ポロポロと涙を流して語り始め、私は黙って聞いていた。

「どうしても、君に御礼が言いたい…。そして、君の優しさに触れて、僕も人間になりたいって思ったんだ。何度も何度も、空に向かってお祈りをしたんだ。」

すると、ラクトエリマス様が僕の前に現れて、こう言ったんだ。

「お前の望み、叶えてやろう…。但し、もう二度と元の姿には戻られないぞ…と」

「僕は、それでも言いと思った。だから人間になって、君に会う為に此処で待ってたんだ…。そしたら…君が来た。」

少年は、私の顔を見つめた。

「そう…だったの」
私は、それしか言えなかった。

「だから、会えて嬉しいんだ」
ニッコリと微笑む。


まだ、信じられないけど…
この目の前にある現実を、私は受け止めなくては…と思いながら、少年を見つめ返した。

まだ吹く風は冷たいが、私の胸は熱く燃えるようだった。