葵は、明徳を連れて屋上に来ていた。
「話って何だよ?…咲良のことか」

「当たり…さすがだね」
その言い方が、明徳を苛つかせると言うことを葵自身、気づいていない様子だ。

「僕が、声を掛けた時…怯えていたよ。咲良が悪い訳じゃないんだけどさ…一瞬、何となく嫌われたかなって思ったんだ」

葵は、柵の手すりに肘を載せて、空を見上げた。

暖かな風が、葵と明徳の髪をなびかせる。
「…アイツは、そんな簡単に人を嫌う人間じゃない。俺は、幼稚園の頃から一緒だから分かってるつもりだ。」

眉間にシワを寄せて、葵を睨み付ける。
お互いの間に、ピリピリとした空気が流れていく。

「そうなんだ…僕は、咲良のことをよく知らないのかも知れないな…」

ふぅ…と溜め息を吐いてから、明徳を見つめた。

「そんなの、知ってるとか知らないとか…これから、少しずつ分かって行けば良いじゃねぇのかよ?…俺は、昔から咲良のこと知ってるだけで、葵にしか見せない顔も沢山あるぜ。俺には見せたことの無い顔をな…」

柵に寄りかかって、明徳は葵を見つめ返した。

「そうだな…」
「だろ…?」


そう言ってお互い顔を見合わせて笑った。

「俺達は、ライバルだけどよ。友達でも有るんだからな…そこんところ忘れんなよ?」

明徳は、ニカッ…と笑ってみせる

「あぁ…もちろんさ」
葵も、ニコリと微笑み返すと、2人で拳と拳をトンッ…とぶつけ合った。