気がつくと、もう6時を過ぎていた。
着替えを済ますと、リビングには母がいつものように珈琲を淹れていた。

私の鼻をくすぐる。
「う〜ん、いい香り♪キリマンジャロね」

「そうよ。…咲良(さくら)も、ご飯食べて行くでしょ?」

「うん、私パンね」
そう言って、椅子に腰掛ける。

台所で母、小百合(さゆり)がトースターにパンを入れながら、「バターで良いんでしょ?」と言う声が返って来た。

朝は、いつもこんな調子。
仲が悪い訳ではない、母は朝が苦手な上に低血圧なのだ。

私もそれを受け継いでしまったのか、どっちかと言うと朝は苦手である。


私…来宮咲良(きのみや、さくら)
高校1年の16歳。

他の人と比べると、ちょっと変わってるみたいなの。

私は、全く気にしてないんだけどね。
人間だもの。個性的なのは、良いと思うんだけど。

「パパは、もう仕事?」
珈琲をすすりながら、母に聞いてみた。

「今日は、お休みなんですって…昨日は夜勤でしょ。帰りが遅かったから、今はグッスリ眠っているわ」

母も、椅子に腰掛けると珈琲に口を付けた。

「ふ〜ん…大変なのね」
焼きたてのトーストにかじりつくと、表面はサクサク、中はフワフワで、とても美味しかった。

《ピンポーン…》



「いけない!…今日は、明徳と沙羅が迎えに来てくれるんだった」

慌ててパンを口の中に放り込み、ムグムグ…と噛んだ後、一気に珈琲で流し込んだ。

《おはようございます〜》
《ちょっと待っててね…》


明徳たちの声が、リビングまで聞こえて来る。


鞄を片手に持って、玄関まで走った。
「お待たせ…!」