受け取った複雑に折り込まれた紙切れを開く。

どうせただの嫌がらせだと気のない視線で紙切れの内容を見た。


中身を認識したとたんに早苗は目を見開き、血の気は一気に失せた。

紙を握り潰し、拳を震わせた。


『偽カップルの秘密をバラされたくなければ
今夜7時に廃工場裏の空き地に来い
もちろん一人でだ

破れば秘密は全員に知れ渡りお前の仲間を傷付けることになるだろう』

――馬鹿らしい

そう思うものの、不安は消しきれなかった。

空き地とかベタすぎる。
テレビとかマンガの読みすぎじゃない?

仲間を傷付けるってそんな仲間なんて私には――

そう。
ちょうど失くしたばかりだ。

そんなんで一体誰をやるっての


そう鼻で笑い飛ばそうとしたとき、嫌な考えが頭をよぎった。


――由香

この手紙を持ってきた。
私の友達だと認識されていたら――

――…まさかね


早苗は呆れて頭を振る。
しかしもう一人の自分が悪い考えを囁く。


じゃあ何で由香に持って来させる必要があった?
机の中にでも入れておけば――

「あぁ!もううざったい!」

早苗は立ち上がり、カバンを持ち上げた。

まだ授業は残っている。
数人が目を上げて早苗を見送ったが、引き留めることはなかった。

校舎を出る早苗の背中をヒスイは窓から見つけ、後ろの友を振り返る。

しかし当の本人は違うところをボンヤリと見ていた。


廃工場はつい一年前までは普通に稼働していた。
不況の波に飲まれ経営が成り立たず、潰れてしまった。


広い敷地は市が買い取り、建家は立ち入り禁止になった。


工場の入口は厳重に鍵をされ入ることは出来ない。


しかし買い取られてそのまま放置されている敷地は、悪ガキの溜まり場として有名だった。


学校側はそんな場所に行かないように指導はしているがたいした効果がないのが現実。


もちろん、早苗はそこに行ったことなどない。


この付近で有名だし、通り掛かるくらいはあるが、と行った程度。


早苗は以前ケンカの場にもなった公園に入った。

――馬鹿みたいって言えば、一番私が馬鹿みたい

「はぁ…」

あてもなくブランコに腰を下ろした。

心は重く、何もやる気が起きない。


呼び出してケンカってなんてガキっぽいんだか

そんなんに振り回されなきゃならない私もガキ


大人だったらこんなことしなくて済むのに。

――早く大人になりたいなぁ…


カバンを下に置いて、ブランコをこぎだす。

前へ後ろへ行ったり来たり。
上に近づこうとしてもその場を動くことはない。

――まるで私みたい。

クスリと笑って吊り紐を一瞬引いガタッとさせる。

少し勢いを殺して――前に行くと一気に飛び降りた。

「やたっ!新記録!」

少し気分が明るくなって水を飲みに行った。

蛇口を目の前した時、早苗は固まった。

傍らにタバコがある。
ご丁寧にライターまで。

こんなところにあったら湿気てしまうと早苗はその二つを手にとる。

――そういえば…

父は大概、機嫌が悪い時にタバコを吸っている。

きっと、今の自分みたいな心情の時に違いない。


早苗は、箱の中身に手を伸ばした。


軽く叩くと、うまく一本だけが入口から飛び出す。

それを抜き取り、口に運ぶ。

そしてライターのスイッチに手を伸ばし――


「何か悩み事でもあるの?」

「ふぇ!?」

びっくりして早苗は手にあったもの全部を取り落とした。

プッと吹きだすのが聞こえたと思ったら、女の人が腹を抱えて大笑いしていた。



「アハハ、かわいーなぁ」

「なな、何ですか!」

女の人は笑いすぎて出た涙を拭ってにっこり笑った。

「ソレ、私のなんだ」

指の先を見れば蛇口の下に落ちたタバコとライター。

「うわわ!ごめんなさい!アタシ落としちゃって!
って何でアタシが何か悩んでるってわかったんです?」

早苗は二つを拾って汚れをはたきながら聞いた。

女の人はまた吹き出しそうになり口を押さえる。