髪は、おかっぱで、草履が片方脱げていた。
人形全体に泥がついていたけど、わたしは、この人形に見覚えがあった。

「ドアの隙間から見えたのって・・この人形じゃないの。」姉は、丁寧に顔の泥をとっている。

「うん。その人形だったみたい。」わたしは、ホッとした気持ちとガッカリする気持ちが入りまじって複雑な感じがしていた。

お化けを見たわけじゃなかったのだ。風で飛ばされて、わたしの部屋の窓に張り付いたのだろう。

何か、泥の中から宝石でもでて来るのではないかという、淡い期待もあったけど、

わたしは、この日本人形を見つけたことで十分満足していた。

それにしても、あの雨と風の中。日本人形がわたしの窓にとんでくるなんて。

あまりにありえない出来事だった。

姉は、「この子の持ち主は、きっと探しているんじゃない。その人にとっては、宝物だよ。」と言って、川にいる大人の方に歩き出した。

姉が、ちらっとこちらを振り返った時、人形の帯が、キラッと光った。