わたしは、朋子の予想しない行動に思わず、
声が裏返ってしまう。
「何の真似だよ。ねぇ、やめて土下座なんて。」

朋子は、さっと顔を上げ真顔で、

「俊くん、かっこいいやん。駄目?」そういうなり、また、頭を下げた。

「やめてってば。朋子、さっき彼のこと、かえるだと思えばいいっていったばかりだよ。」

部屋に沈黙が流れた。
扇風機の頭が動く音が聞こえる。

わたしたち二人は、声を合わせ笑いだしていた。

「あー、苦しい。あははは。」

「あはは。朋子、矛盾してるよ。」

「かっこいい蛙だって。」なんだか、涙目になってきた。

朋子も笑いすぎて、目から涙がこぼれ泣いている。

わたしたち二人、一体何をしているのだろう。 こんな、くだらないことで、笑えるなんて。

朋子は、涙を手でぬぐうと、カバンから手鏡と櫛を取り出した。

「髪、私が直してあげる。」そういって、立ち上がりわたしの後ろにまわった。

朋子は、ゆっくりとした動作で手鏡をわたしに持たせ、髪を櫛でときだした。

この手鏡、わたしが朋子にプレゼントしたものだった。

手鏡全体が青色で、鏡の裏側には、砂浜と海がプリントされたもの。

5、6年前にプレゼントしたものをまだ、使ってくれていた。