「ハムおじさん……それって」
僕はテーブルの上に置かれた肉の塊を指差した。
ハムおじさんは言う。
「んっ? なんだい。ハムパンマンも食べたいのかい。まったく食いしん坊だなぁ」
「そうじゃなくて」
「そういえば……チーターさん達は、僕が届けたハムサンドウィッチ、ちゃんと食べてくれたかなぁ」
チーターさん家のチー太くんがいなくなったのは一昨日。
その日ハムおじさんは新しいハムを燻製していた。
そのハムを・・・ハムおじさんは僕の頭に。
そして、そのハムで作ったサンドウィッチを、今日チー太くんの両親に。
気がつくと僕は間合いをつめて、ハムおじさんの首を絞めていた。
ギギギと口の端から泡を吹いて、ハムおじさんは溺れるように、もがいていた。
ばたばたとさせていた右手が何かをつかんだ。
厨房に置いてあった血だらけの包丁を掴んだハムおじさんは僕の腕に向かって切りつけた。
すんでのところで手を離した僕は数歩後ろに下がる。
左手で喉元をおさえながら、ハムおじさんは鬼の形相で包丁を振りかぶる。
僕は横に置いてあった業務用の4キロもある小麦粉の袋を破き、振り回した。
空間内は瞬時に粉末で満たされ、ハムおじさんは顔に多量の小麦粉を浴びて、顔を僕から背けた。
怯んだ隙を見計らって後ろに回り込み、チョークスリーパーで再び首を絞める。
フッと右手の力が抜けた。
見ると僕の右腕は切断され、傷口からはフレッシュな鮮血が蛇口のごとく噴出していた。
形勢は逆転し、僕はテーブルに押し倒され、ハムおじさんは僕の上に馬乗りになった。
ハムおじさんは目を血走らせながら、握りしめた包丁を僕の心臓に振り下ろす。
そんな時だった。
そんな絶望的な状況の中で、僕はまったく別のことを考えていた。
この町のみんなは本当に優しい。
僕は人でもなく動物でもない。
そんな得体のしれない僕を、みんなと同じように学校に通わせてくれた。
共に歩む仲間として扱ってくれた。
だからみんなの愛に応えたい。
僕はみんなを守りたい。
だって僕はハムパンマン。
みんなに頼りにされるのが嬉しくて、みんなの為に働くことが生きがいだ。
みんなの為になるのなら・・・・自分の命は惜しくない。
ハムおじさんが僕の胸に包丁を突き立てた頃。
テーブルに置いてあるライターに手を伸ばす。
そして小麦粉の粉塵が高密度に飛び交うこの密室で。
僕はライターに火をつけた。
END
最後までお読みいただきありがとうございます。
最後どうなったの!?と思われた方は、ネットで『粉塵爆発』と調べてください。
決してやったら駄目ですよ。
死にます。
ハムおじさんの犯行の動機は、大きく分けて二つ。
一つは人類を滅ぼされた復讐。
もう一つは純粋な食欲ですね。
ちなみに作者がこの作品で一番気に入っているのは、スキンちゃんというネーミングです。
スキンとはコンドームのことです。今はあんまり言わないけど。
この作品を通じて、作者がいかにイカレてるかがわかっていただけたら幸いです。
感想お待ちしてます。
ありがとうございました。