チクチクする胸をちょこっとだけ押さえて深呼吸を一回。
少し落ち着いてから、私はゆっくりと歩く。
「ただいまぁ…」
「あぁ、お帰り千鶴。悠希くんもいらっしゃい。」
「ども、お邪魔します。」
パパには律儀な悠希。
小さく頭を下げてから玄関からじゃなくてベランダから入る。
不揃いな靴をそのままにして買い物袋をパパに渡す。
「助かったよ。ありがとう千鶴。」
「これくらい良いよ。それよりママは?」
「宿に行ってるけどもう帰ってくると思うよ。」
私の家は民宿をやってる。
ド田舎だけどよくバイク旅の人なんかが来るから地味に民宿は忙しい。
ふわふわしたパパよりしっかりしたママが民宿をやるのに合ってたみたいで最近はパパが主夫をしてママが民宿をやってるみたいになりつつある。
「そっか、じゃあママが帰ってくる前に着替えちゃうね。」
ダイニングテーブルに座ってちょっと似合わないオレンジジュースを飲む悠希に笑いたい気分だったけど…
笑ったら何事言われるかわからないから必死に隠して階段を駆け上がった。
階段を上がって右側の1番奥の部屋が私の部屋。
女の子らしくないと言われる部屋に入って箪笥から私服を引っ張り出す。
白いふわふわのシフォンスカートに赤いサマーニット。
夏にはまだ早いけど、家にいるんだからあんまり気にしない。
好きな人に少しでもかわいくみてほしいって言う乙女心だ。