――お前、すごいな
――頑張ってる並木に
ちゃんと…“私”を見てくれている人がいたよ。
こんな醜い私を褒めてくれる人がいたんだ。
嬉しかった。無性に嬉しかった。
やっと………誰かに認めてもらえた気がした。
「ありがとう……」
すでに教室から出ていって姿も見えない碓水君に、小さくお礼を言った。
いつもの教室がぼやけて見える。
頬を伝いポタッと落ちた滴は、ノートにシミをつくった。
ありがとう、碓水君。
おかげで心が軽くなったよ。
それと同時に、トクン…トクンと鳴る心臓。
頭に浮かぶのは初めて見た碓水君の小さな笑顔。
あぁ、私…碓水君のこと
好きになっちゃったのかな。
この気持ちが恋だと確信したら、みんなに相談しよう。
この時……
私が残って勉強しなかったら
碓水くんが教室に来なかったら
私が碓水くんに惚れなかったら
もっと別の……
みんなで笑っていられる
未来がありましたか?
(そんなのもう分からないけど)
この時から既に運命の歯車は
歪な方向へと廻りだしていた。
(そんなの誰も気づかない)