そのまま背を向けて病室から出ようとすると、ツンッと何かに引っ張られた。

振り向けば布団から出た夏琅の手が服の裾を握っていた。


「夏琅?」

「まだ…良いだろ?……も…ちょ
っと…話そうぜ……なっ?」

「………ったく」

俺は夏琅の腕を掴み布団の中に戻すと、イスに座り直した。

「なに話す?」って言うと夏琅は嬉しそうに笑った。




「なぁ、由輝……」

「ん?」

「俺の最期のお願い聞いてくれ」

夏琅は最近“最期”という言葉をよく使う様になった。

近づいてくる死期を皮肉っているのだろう。


「何だよ?」

――――俺に出来る事ならなんでもしてやる。だから………

最期なんて言わないでくれよ。



「お前の手で、俺の命を終わりにしてほしい」


夏琅の言葉は俺の思考を凍らせるには、充分すぎるくらい残酷な言葉で………。

夏琅は小さく微笑んだ。

「こんな事、普通頼む奴なんていないと思うし……。ホントは恋人が良いと思うんだけど…さすがに來にこんな頼み出来ないしさ。」


―――だから、せめて……

由輝の手で死にたい


そう呟いた夏琅の声は、酷く温かくて酷く穏やかだった。