「お待たせ!…って、あれ?」
教室の扉の方に振り向くと、花梨が立っていた。
「どうしたの?」
一瞬で空気を読んだ花梨は、首を傾げる。
何でもないよ、と言って私たちは教室を出た。
「あ…!」
廊下で不意に立ち止まる。
「なに?」
「ノート!先生に提出すの忘れてたから、先に行って下駄箱で待ってて。」
私は踵を返して、歩いてきた廊下を戻った。
「失礼しました」
国語準備室の扉を閉めて、夕日に染まる廊下を歩く。
夏琅…どこにいるんだろ?
夏琅の病気が発覚してから、時間に敏感になった。
夏琅は夏休みに入ると、治療に専念するため入院することが決まっている。
今のところ、ドナーも治療方法も見つかっていない。
夏琅と一緒に過ごせる時間は限られている。一日一日を大切にしなきゃいけないの。
なのに、夏琅は毎日放課後になるとどっか行っちゃうし………。
「バカ………」
小さく呟いた声は、夕日の紅に溶けていった。
「………あれ?」
男女が楽しそうに話ながら、教室に入っていった。
今の……
「なつ、ろ…?」
見間違えるはずがない。