そして車はゆっくりと走り出し高速道路に合流した。
私は車から流れる音楽を口ずさみながら旅行雑誌を開いて見ていた。
「ねぇ、たくちん?」
「ん?何?どうかした?」
「旅館に着く前にケーキ買って行こ〜よ」
「ケーキ?」
「うん、2人の初旅行を記念してお祝いするの」
「おっ、いーねー。分かった」
「やったぁまた楽しみが増えたね」
私はワクワクしながらまた雑誌に目をおとした。
それから車はしばらく走り続けた。
「瀬菜、最後のパーキングだぞ。寄らなくていいか?」
突然たくちんの声に気が付いた。どうやらうとうと眠っていたらしい。
「う〜ん…喉も渇いてないし、トイレも大丈夫だからいいかな」
「分かった。もうすぐしたら高速降りるからケーキ屋さがそうか」
「うん、通り沿いにあるといいね」
あっという間に目が覚めた。
私達は高速を降り下道に出た。よーし…ケーキ屋探し。絶対に見逃すもんか!私は1人気合いを入れた。
「瀬菜、ケーキ屋探せよ」
「分かった。じゃあたくちんは右側をチェックしてね。私は左側をチェックするから」
そう言って助手席側の窓にぺたりと張り付いた。しばらく走った。まだケーキ屋は見当たらない。
「やっぱり町場まで行かないとこんな温泉街じゃないかなぁ…」
たくちんがポツリとつぶやいた。
「大丈夫!絶対あるから」
自分に言い聞かせるように言った。
と、その時…
「あっあった〜」
先に見つけたのはたくちんだった。
「えっ?どこどこ?」
私はたくちんの指差す方へ振り返った。
「…………」
車はゆっくりとケーキ屋の前を通り、そして通過した…
「今のはナシだね」
たくちんの言葉に
「うん…そうだね」
小さく答えた。
とってもとっても小さなパン屋さんとケーキ屋さんが合体したようなお店だった。シャッターが半分近く閉まっていた…
気を取り直して…
「まだあるよ。次は私が先に見つける!」
負けず嫌いの私は次は欲張って左右の看板を見ながら探した。
(絶対次はたくちんより先に私が見つけるぞ)
必死になって左右見比べていたら…
「あーあったぁー」思わず叫んだ。
○○ケーキと書いてある看板を見つけたのだ。
「えっ?どこ?」
まだ気付いていないたくちんに得意げに私は前方左側を指差した。
「ほら、あそこ」
「あっ、ホントだ。良く見つけたね〜」
後続車がいない事を確かめゆっくりとケーキ屋さんの前を通った…
「あっ…」
「あっ…」
同時に叫んだ。
「………」
「……まだあるって」
たくちんがそう言った。私の見つけたケーキ屋さんは半分どころか全部シャッターが閉まっていてしかも、もう何年もやっていないようなところだった…。
気落ちする私にたくちんが
「さっ!気合い入れて探すぞ」
見返してやったつもりがたくちんに励まされていた…
また、2人で辺りを見渡しながらケーキ屋さん探しのスタート…。ふとたくちんを見ると運転しながら必死に探していた。そんな姿を見て思わず笑いが出てしまった。
「フフフ…」
とっさにたくちんが
「何?どうした?」
「ううん、何でもない。何だか宝探しみたいね」
「そうだね」
それからもケーキ屋巡り…いやケーキ屋探しは続いた。しばらく走ったが一向に見当たる気配はなかった。
「もうすぐ旅館につくなぁ…やっぱり町場までいかないとないかなぁ…」
たくちんが残念そうに私を見た。私も半ば諦めかけたその時…
「あぁあったぁ〜今度はバッチリだ〜」
真っ先にたくちんが叫んだ。
「えっ?ホント?今度は大丈夫かなぁ…」
車はスピードを落としケーキ屋へと近づいた。
間違いない!今度はレンガ造り風の建物で店内にはお客が何人かいた。
「あったね〜やったぁ」
たくちんはスッと駐車場へ入り車を止めた。バタンと車のドアを閉め店内へと入った。
「きゃ〜。キレイ美味しそうなのがいっぱいあるよ〜」
はしゃぐ私にたくちんは言った。
「瀬菜の好きなのでいいよ。どうせ買うならホールの方がいいんじゃない?お祝いだし…」
「えぇ〜?いいの?食べきれるかなぁ…」