「そう、ピリピリせず。私はこの辺りの空気が好きで、たまに散歩するんですよ。ああいうデカい奴らがゴロゴロいますけどね…。絶好の癒し系スポットなのですよ。」
男は不適な笑みを浮かべた。
ぎぃゃゃゃあーっ!!
先ほどより一回り大きい巨大カマキリが、遠くから三人めがけて走りこんできた。一体の死体に怒り狂っているようだ。
「また来たっ!」
クロスは体を支えてくれているタケルの腕をギュッとつかんだ。
下がってなさいと言わんばかりに、男は二人の前に右腕をあげた。
「ふんっ!」
呪文もとなえていないのに、男の残された片腕からタケルの魔法とは比にならない大きさの黒い玉が放たれる。同じ力なのである。
呪文魔法はそもそも呪文にちゃんと意味があり、精霊達と交信(主に)する言葉なのだ。自らが魔法が使えない人間であっても、契約が成功すればその力を借り、その交信した精霊に属した魔法が使えるようになる。1つの呪文に1つの魔法なので、まあデメリットもある。しかし、魔法が使えない人間でも契約成立で魔法が打てるのは大きなメリットだと思う。審査の対象は不明。精霊達の気まぐれかもしれない。
ダリオは呪文を唱えていない。この属性をまとう種族の人間なのであろう。
結果は目に見えている。巨大カマキリは即死だった。
タケルはその一瞬の出来事が目に焼き付いた。自らを天才だと言っていたのはある程度ジョーダンではあったが、自分の力の強さにはけっこう自信があった。上には上がいたのだ。自分がどれほど狭い世界で生きていたのかと少し戸惑い?怒り?様々な感情が芽生えた。
「どうです?なかなかやるでしょ?」
ふふんっと言わんばかりにダリオは、タケルに歩みよった。
タケルは黙っている。
「私はこう見えても、なかなか魔法の栄える国の人間なのです。こんなもの簡単です。ところで君?」
ダリオは自己紹介の続きを始めた。そして力を見て興味を抱いたタケルに質問をした。
「俺はあの森の中にある村で育った。生まれた場所や血筋はさっぱり覚えてねえから、どこの出身かはわからねえ。」
タケルは村の方角(見えないが正しいと思われる)を差し素直に答えた。
「森の中に…村ですか…?」
ダリオの目が怪しげに不気味に輝いた。森の場所はわかる。ただその森の奥に村があるのなど、何も知らなかった。