「なんだあのガキは…。」
ただひたすら二人を見ていた男は、タケルの力を見てぼそっとつぶやき。二人に少しずつ近づいていった。
ぎぃやぁぁー
という悲鳴をあげ、巨大カマキリはもがき苦しんだ。直撃した部分がちぎれ、血を吹き出している。位置が悪かったのか致命傷になり、しばらく悲鳴をあげたあと、ゆっくりと果てた。
なんとタケルは、自分より何十倍もの大きさの巨大カマキリを一撃でしとめてしまったのだ。
「約束したろ?」
タケルは、クロスに向かって仁王立ちし、ふふんと鼻で笑っている。
「さすが、タケル。」
クロスは腰を抜かした。やっと力が抜けたのだ。死ぬかもしれないと頭に何度よぎっただろう。敵などいない村では、死んでも体験する事などできなかったであろう。
しかし、クロスの心は痛んでいた。
「ありがとう。でもカマキリ…死んじゃったね。あんなに命は大切にしなさいて教わってきたのに。」
戦争を嫌った村では、無意味な殺生は御法度だ。生きていくために必要な食物連鎖はよい。感謝していただきなさいと教わった。だが、虫やその他の動物、植物でさえも殺したり抜いたりするのは酷く怒られた。さきほどのカマキリは巨大とはいえカマキリだ。複雑な気持ちなのである。
「仕方ねえんじゃあねえの?じゃなきゃ殺されてたぜ…。」
タケルは割り切っていた。
「その通りだと思いますよ?」
拍手の音。急な人の気配に二人は身構えた。
「誰だ!?」
戦いの後だ、タケルの神経はピリピリしている。
「これは失礼いたしました。私、ダリオと申します。あなたの力についつい声をかけずにはいられませんでした。」
スラッとしたもやしのように背が高く、長い黒い髪を一つにまとめて、スーツのような暗い服を身にまとった、話し方の綺麗な男だ。顔は中性的、見た目30代。声を聞かなければ女にも間違えそうだ。
二人は構えを解かない。
「お嬢さん、綺麗事だけじゃこの戦国時代を生き抜いてなぞいられませんよ?自分の死はつねに隣合わせなのですからね。」
しゃがみこみ、どうぞと言わんばかりに手をさしのべた。
クロスはその怪しげな雰囲気に手をそえる気にはなれなかった。
「こんな時間にこんな所で何をやってんだ!」
タケルは、ダリオの手をのけるようにクロスの前から手をまわし、体を支え、クロスを静かに立たせた。