逃げ回る二人を少し遠くで見つめている一人の男がいた。
「ぎゃーっ!!」
逃げ足の速い二人でも、大きさが違う。巨大カマキリの一歩とタケル達の一歩は全然違うのだ。しかもデカく長い手を伸ばしてくる。必死に逃げ回るのでいっぱいだった。広い草原で隠れる所もない。森に逃げればいいのかもしれないが、森の木々ですら切り倒してしまいそうな程のカマだ。
「これじゃあラチがあかねえ!クロス!少し時間かせげ!俺の魔法食らわしてやる!」
「無理ーっ!!」
「お前しかいねえんだ!!やれっ!!絶対お前だけでも逃がしてやるから!!たのむ!!」
とりあえず少し集中する時間がほしかった。一発でも食らわせれば、タケルが標的になるだろう。そしたらクロスは逃げる事ができる。後はなんとかなる。少し自信もあった。自分の力を信じていた。
「わかった。」
二人の間には、家族のような絆がある。小さな頃からつちかってきたものだ。自分を置いて逃げようとしたりする訳がない。何もできない無力な自分なのだから、タケルを信じて動くべきだとクロスは思った。
クロスは立ち止まり、ふってくるカマを必死によけた。実はスピードの面ではクロスが上なのである。その上、相手を冷静にみつめ、動きを予測するのがうまいのだ。村の人間の中でも飛び抜けた能力である。普段おっとりした性格だからか、こんな時も落ち着いている…逃げ回るので必死ではあるが…危うい面がない。体力勝負だ。
「δτπψνζ…」
タケルは両手を横に広げ、意識を額に集中させ、タケルの周りにだけ、何やら重い空気が流れる。
呪文と普通に使える魔法の違いについては後で詳しく説明するとしよう。こう言ってる間にも、タケルを取り巻く空気は徐々に大きくなっていく。タケルの銀色の髪がその空気のよどみで、風にふかれているようになびいている。
Гどけっ!!クロス!!」
そう叫ぶと両手を前に突き出した。すかさず、クロスは後ろに飛ぶ。
ドーンッ!!
タケルの手のひらから大砲のように低い音を響かせ、黒い大きな玉が回転しながら、火花のようなものを放ちながら飛び出した!火の力でも雷の力でもない。闇の力のような重々しさがある。
巨大カマキリは音に驚き、タケルの方を向きなおしたが時すでに遅し、向いた瞬間巨大カマキリに直撃した。