「うおっ!木がねえ!」
そこには、だだっ広い草原が当たり一面に広がっていた。草も膝下までの高さまでしかなく、視界を遮るものは何もなかった。森の中で生活している者達には、想像もつかない景色であろう当たり一面の草原。遠くには高くそびえ立つ山々も見える。見上げたら空は満点の星空。しかし、その中でも、もっとも存在感があり輝やいている三日月。
「空ってこんなに広いんだね。知らなかったよ。」
クロスは空を見渡した。村にいる者達は、村の広さの空しか知らない。この今の気持ちは一生忘れられないものだろう。星空の絵もクロスの目にしっかりと焼き付いた。
タケルは光の玉を消した。もう月明かりだけで十分なのである。自然の光が、辺りを照らしてくれているのに、邪魔だと思った。いっそう空の星達の数が増したような気がした。キラキラと小さく輝く星もいれば、ギラギラと自らをアピールしている星もいる。
「やべえな、オヤジの話じゃ外にあるのは、戦争ばかりをしている国々があるだけだって言ってたから、もうボロボロなもんしかないんだと思ってたよ。そんな事ねえじゃん!」
タケルは胸がいっぱいになった。興奮を抑えられない。自分の知らなかった世界が広がっているのだ。飛びださずにはいられない。
「みんなが目を覚ます前に帰ればいいんだから、もう少し行ってみようぜ!」
タケルはクロスの腕をつかみ、走り出した。
柔らかい土。草の匂い。開けた視界。
「うわっ、でっかい虫がいる!」
タケルは急ブレーキをかけた。急に止まられ、止まれる訳のないクロスが、タケルの背中に体当たりした。
「痛いっ!いったいどうしたの?」
クロスは鼻を真っ赤にし、涙目でタケルの目線の先に目をやった。
「!?」
通常より何倍、何十倍あるかの巨大なカマキリが、こちらを見つめている。普通にタケル達との大きさにも比にならない。タケル達が腕くらいだ。それぐらいでかいカマキリなのだ。
「ぎゃーっ!!」
タケル達めがけて、カマキリが突進を始めた。これはピンチである。森の中で危険にさらされる事などまずナイので、武器も何ももたずに村を出ている。
カマキリは奇声をあげ、前の手でガリっガリっとタケル達の姿を捉えようとした。
「何故こんな時間にこども達だけでうろついている?」