「起きろクロス。そろそろ行こうぜ。」
窓からタケルの声が聞こえた。クロスの寝部屋、ベットは窓のすぐそばにある。
クロスは目を覚まし速やかに荷物を持ち、物音を立てないように静かに窓から外へ出た。そこからは静かにダッシュ。村の外に出るまでは、モタモタしていると人に呼びとめられてしまうのだ。皆が眠りについてからとはいえ、全員が全員寝ているとは限らない。たびたび脱走した二人の経験から、このルールができた。おかげで物音たてずに全力疾走という忍者のような走り方をマスターした。
「ここまで来たら大丈夫だろ。」
村の入り口すら見えない所で、やっと呼吸を整える。
「久しぶりに走った…。あの村じゃ走るって事ないもんね。」
クロスは体を前に倒し、深い呼吸をする。心臓はバクバクだ。
「ふうっ。本当だな。あの村で生まれた奴、人生で走るて事なんかねえかもな。じゃあとりあえず行くか。森の地形なら何度も行ってるから頭に入ってるし、迷う事はねえだろ。森の終わりが近いのは…たしかこっちだよな。」
タケルは西を指差した。
「普通にこっちが近いよ、タケル。迷う気まんまんじゃない。」
クロスは、東を指差す。
実はタケルは方向音痴のようだ。たしかに森の地形を地図にしたようなものは頭にあるのだが、方向がまったくわかっていないのだ。なかなか応用のきかない頭の中の地図なのである。だから、クロスはタケルが行きたいと言えば行くのだ。タケル1人で森に足を踏み入れたら、本当に二度と帰ってこれなくなりそうだから。
「光玉(ブライト)。」
タケルは光の玉を二人の間に放った。小さな玉だが、辺り半径5メートルくらいまで見える。
二人は歩き出す。歩いているのだが、スピードは小走りくらいのスピードである。夜の森なのにだ。森をよく冒険しているから、森を歩くのは慣れたもんだから、私達ならば一歩一歩足元を見ながら歩かないと怖くて歩けないのだが、どこに何があるかわかったようにスルスルと歩いていく。
あっという間に森の終わりまでたどり着いた。いつもなら、森の植物や生き物探しをしたり、流れている川がどこからきているのか探検したりと森の中から外に出る事なのなかったが、今日は違うのだ。胸が高鳴る。
二人は村で暮らすようになってから初めて、森の外に足を踏み出した。