「ここまで使えねえとなると、クロスは覚えてないと言っていたが、まったく魔法が使えない地域というものがあって、そこで生まれたのかもしれねえな。」
長は、クロスの肩をポンっと叩いた。
「俺は魔法の天才の血筋だぜ!オヤジより魔力あるしな!オヤジの血じゃなくて良かったぜ!」
タケルは、火の玉を数個クルクルと回している。
「へっ、俺だっててめぇみてぇな息子いらねえよ。言ってろ。」
長はタケルに背を向け、他のこども達を指導しに行った。しかし、その顔は、親子喧嘩をしてイライラした表情ではない。むしろ、穏やかだ。
二人にとって、このけなしあいのようなものがコミュニケーションなのである。お互い本当に嫌いで言っているのではない。タケルは長を自分を育ててくれている大事な親だと思っているし、長にとってタケルと他の村のこども達では、やはり可愛いさが違うのだ。男同士だからこそできるコミュニケーションだ。
「なあ、クロス。今日森の外に出てみないか?」
タケルは魔法を解き、クロスの方を向き、小声で言った。
「森の外?今まで、森の外に出たいなんて言った事ないのにどうしたの?」
クロス達は夜中、皆が寝静まった頃村を抜け出し、小さな冒険をする事があった。
「やっぱ男としては、外の世界に飛び出したいと思う訳よ。まあ、オヤジもいるし、別に村を出たいと思ってる訳じゃねえけど…。だって、俺達この森の中の狭い世界しかしらないんだぜ?色んな種族、色んな世界があるってのに、それを知らないで死にたくはないな。」
タケルは大きく手を広げ、太陽の方向に目をやった。
「そだね。ちょっと行ってみようか?最近、外出てないもんね。」
クロスはOKした。
「じゃあ、また夜起こしに行くからな!用意して寝てろ。」
そう言うと、また火の玉数個作り、クルクル回しながら他の子の様子を見に行った。
クロスは目を閉じ、顔の前にたてた人差し指に意識を集中させた。
(火、火、火…私は火を出せる!)
いくら集中させても、火の玉がでる事はなかった。その魔法の力すら感じる事はできない。
(あーあ、私も魔法使ってみたい。)
クロスは、いつも魔法の時間は悲しくなる。疎外感を感じてしまうのだ。誰もクロスを責めたりはしないが、それがまた悲しかったりする。
結局何もできないまま日は落ち、森は深い闇に包まれた。