「さて、かたっくるしい話はこれくらいにして、新しい魔法の勉強でもするか!」
村長は立ち上がり、足についた砂を払い落とした。
「あー、さわんないで!」
クロスの泣きそうな声が聞こえる。
「クロスが足しびれてるらしいぞ!」
子ども達が一斉にクロスのしびれた足に向かって飛びついた。
クロスは、声にならない叫び声をあげている。
それを見て、タケルはお腹を抱えて笑い転げている。
「今日もここは平和だ…。」
村長は、ホッと胸をなで下ろし、心の底から、この平和に感謝した。
子ども達が笑っている。あんなに心も体も傷だらけだった子ども達が笑っている。
しかし、この平和を終えるカウントダウンの足音は刻々と近づいていた。
「もう笑ってないで!助けてよ、バカ!」
クロスが、必死に立ち上がり、タケルの肩をピシッと叩いた。
「俺だったら足がしびれてる事を悟られないで、立てる!」
タケルも足がしびれていたようだ。
バシッ!
子ども達の標的がタケルに移った。
「お前ら、誰の足を蹴飛ばしやがったーっ!!」
主人公であるタケルとクロスは、小さい頃から一緒にいる幼なじみである。年も同じ年で、二人しかこの年の子がいないので、昔から毎日毎日よく一緒にいた。男と女だから、14歳になった今、そろそろお互いを意識するような年頃のはずなんだが、あまりにも一緒に居すぎて、もう家族当然なので、変なギクシャクは一度もないようだ。
先ほど、長がタケルをバカ息子と呼んでいたが、長とタケルは、血のつながらない親子なのである。銀色の髪、長に鍛えられ筋肉質な体。しかし、自らを天才だと言うのだから、魔法も使えるようだ。背はクロスよりも小さい。男の子だから、これから伸びてくるのだろう。
一方クロスは、姉と二人暮らしをしている。赤みがかった茶色の髪を、腰上まで伸ばし、目はパッチリしてたれ目。まあ可愛い顔である。しかし、
「お前まだ、基本の火の玉も出せないのか?」
タケルの声。
そう、クロスは魔法が一切使えないのである。いくら練習をしようと、瞑想をしようと魔法が使えない。
この村には様々な国の人間がいるから、生まれた地域の力以外は苦手(使えない訳ではない)な子もいるが、まったく使えないのはクロスだけである。