強く強く抱きしめ、そしてゆっくりと体を離し、少年の両肩に手をのせ、じっと少年の目を見つめて言った。
「俺と一緒に行こう。今日から俺と二人家族だ。俺とお前も血のつながった本当の家族じゃねえかもしれねえ。でも最高最強の家族になろう。」
大の大人が涙を流し、顔をくしゃくしゃにしていた。
少年はしばらくキョトンとした顔をしていたが、目から一筋に涙をこぼし、それから止まらなくなりボロボロと次々に涙を流した。
ヒューンッヒューンッ
イグレは、殺気混じった魔力を感じた。見上げると、無数の氷の刃が二人めがけて飛んできていた。
「あぶねえ!!」
イグレはとっさに少年を抱えこみ、少年の盾になった。
「おじさん!おじさん!」
少年は何が何だかわからず驚いている。何かが地面に突き刺さる音が聞こえる。
「逃がしませんよ、イグレ。」
これは、若かりしダリオ。怒りに震えた声である。まわりに部下である兵士を引き連れて二人を取り囲んでいた。
「っつ…。」
イグレの背中を氷の刃が大きく切り裂いていた。大量の血が流れる。少年は、イグレの体から抜け出し、イグレの背中の血に怯えた。
「おじさん死なないで!」
さっきまで無表情だった少年が、ひどく困惑している。イグレの体を激しくゆする。
「ばか。こういう時はゆすっちゃいけねえよ。心配すんな、これぐらいで死なねえ。俺は有言実行の男だ。お前が巣立つまで死なねえよ。」
イグレはそう言って少年の頭をなで、体をゆっくりと起こし、ダリオを睨みつけた。
「罪人が家族などとふざけた事を…構え。」
ダリオが声をかけると、周りの兵士が一斉に武器を構えた。
少年は、怯え、顔をひきつらせ、イグレにしがみついた。
「諦めたら終わりだ。」
イグレはギュッとしがみついた少年の肩を抱き寄せた。
「やれっ!」
ダリオが手を前に差し出すと兵士達は、ワーッと二人めがけて走ってきた。
少年を抱き寄せた手にぐっと力がこもる。
(くそっ…ダメか…)
兵士達の歩みは止まらない。
ダリオは不敵に笑っている。
「嫌だーっ!!」
少年が叫んだ。
叫ぶと同時に、閃光のように体から力を発した。
「何事!?」
突然の光に、兵士達の動きは止まる。ダリオも直視できず、顔をそらした。