「そんなんで助けられるつもり?」
ダリオの、イグレを踏みつけている足に力が入った。
「先生…。」
中から全身に深い火傷をおい、今にも倒れそうにフラフラと女の子がでてきた。
グサッ!!
ダリオの手のひらから、剣のような形になった魔法が、女の子の胸を一突きにした。
「アイリー!!」
イグレは手を伸ばすが、女の子はスローモーションのように、ゆっくりと地面に果てた。イグレの目にはそう見えた。女の子は泣いていたような気がした。
「ほら、ごらんなさい。あなたに救える命なんてないのだから…。ふふふ。」
ダリオは片手にあびた帰り血をつーっと舐める。
「あの時、私の部下であったお前が我が国の姫を売り飛ばしたせいで、私の信頼が一気に地におちたのですよ?やっとあなたを殺せると思うと、何かとても嬉しいプレゼントをもらったような気分ですね。」
ダリオは剣となった腕を振り上げた。
「売り飛ばしてなどいない!!姫は、あのまま国にいたらどうなっていた事か!!今もどこかで元気に生きてくださってますよ!!あんな国の事など忘れ…っ!」
イグレの叫ぶ声に苛立ち、ダリオはまた何度も何度もイグレを踏み潰す。
「あんな国?あなたにそんな言い方される覚えはありません。もう一思いに殺してあげましょう。」
ダリオはふたたび腕を振り上げた。
「生きて…生きてくれ…。」
イグレは目を閉じつぶやいた。一瞬の間なのに、タケルと出会った頃の事を思い出した。

「いたぞーっ!!」
クリスタル国、城下町。兵士達が何やら慌ただしく城下町をうろついていた。声は伝言ゲームのように伝わり、その声がした方に一気に人が集まり始める。
「はあ…はあ…。」
息を荒らしているのは、若かりし頃…10年前の彼の姿である。建物と建物の細い隙間に体をしのばせ、兵士達の出方をうかがった。
「おじさん?こんな所で何してるの?」
中にはすでに先客がいた。
「うわっ!…しーっ。」
イグレは心臓が止まりそうになるぐらいに驚いた。慌てて、その小さな男の子に静かにするように促す。
「おじさんは今、かくれんぼをしている所なんだ。ばれちゃまずいだろ?いい子だから静かにしてておくれ。」
イグレは、目の高さを男の子に合わせるように前屈みになり、優しく微笑んだ。