「!?」
イグレは、どこかで感じた事のあるなにやら重い空気を感じ、窓の外を見た。
ブォーっと、炎が燃え上がる音がする。一気に村の温度が上昇した。
「何事だ!!」
イグレは、窓から外に飛び出た。
あきらかに燃え方が以上である。あれは普通の火事ではない。誰か使える者が、魔法に失敗したのか、あるいは…。イグレの直感では後者が怪しかった。感じた事のある空気がいっそうに広がる。
ブォーブォー。
一軒しかついてなかった火が、あちこちに広がった。あきらかに誰かの故意でやられているものだ。
「熱いよーっ!!」
すぐ近くの家から、悲鳴に似た叫び声が聞こえてきた。子ども達三人が一緒に暮らしている家である。
「熱いー!!」
「うわーん。ひっく。」
「ぎゃーっ!!」
深い眠りについていた人々の叫び声が響きわたる。いったい何が起きたのか?
「今、そっちに行くからな!!」
イグレ村長は叫び、すぐさま水の魔法を唱え、家に放った。が、しかし当たり一面が炎と包まれる中、一軒だけが消える訳もなかった。イグレは自分に水の軽い魔法をかけ、少しダメージを追ったが、子ども達の叫び声が聞こえる家の中に飛び込もうとした。
「お久しぶりですね、イグレ。まさか、こんな所に隠れていたとは?」
聞き覚えのある声に、一瞬イグレの動きが止まる。
「ダリオ…。」
イグレは、振り向きもせず今度こそ家に飛び込もうとした。
「!?」
イグレの体が一気に重くなった。さっきタケルとクロスがかけられたものと同じ魔法だ。
「私がこの魔法を使えた事、お忘れだったのですか?余裕ですね…。あなたは、逃がしはしませんよ…わが国の裏切り者ですからね…。」
ダリオは冷ややかな笑顔を見せると、体を起こせず、地面にへばりついているイグレを足蹴にする。一発、二発…。憎しみをこめ、ギリギリと踏み潰す。
「熱いー熱い!!!!」
子ども達の悲鳴が大きくなる。
「今…助けてやるからな…。」
イグレは、口を切り血が流れている唇で、何かを小声で唱えている。
「雨水(レイニール)…」
イグレが狙ったのは家。頭に位置を思い浮かべ、呪文を発動。子ども達の家のまわりを雨雲が包み込み、やがてポツポツと雨を降らせ、その雨は次第に強くなった。子ども達の家に直撃する雨が、炎を包み消す。少しずつ、その場の火は消えはじめた。