「それはどこの国だい?」
ダリオは冷ややかに言った。
「もうそこまでは…。」
ダリオの顔に、タケルは何かまずい事でも言ったかと不安になった。
「ではお父さまのお名前は?」
クロスも何やら直感が働いた。
「イグ…」
それを言うと、瞬間にぶわーっと辺りを重い空気が何十にも重なって、二人の体にのしかかってくる。
父親の名前を聞き、ダリオは判断した。
「イグレ…ここにいたとはな…」
ダリオの表情が一変した。二人には何か関係があったのか?
タケルとクロスはのしかかる重圧に、地にふせるしかなくなった。重力が変わったように体が重い。それは、ダリオから放たれた魔法のせいであった。
「しばらくここで眠っているといい。これからの事をその目で見ているには辛いであろう…。」
ダリオはそういうと呪文を唱えはじめた。
(やられる!!)
そう思っても二人の体は動かす事もできなかった。顔をしかめ、重圧に耐える。
「眠気(スリウィル)。」
ダリオは二人の額に人差し指をあて、呪文を唱え終えた。すると二人の体から重圧がとけ、一気に瞼を閉じた。
タケルの目に、呪文を唱え終えたダリオの顔が目に焼き付いた。
(この野郎…オヤジに何かしたら許さねえ…)
心の中でそう言い終えた時、意識が飛んだ。
二人は眠りについた。深い深い眠り。
ダリオは二人が眠ったのを確認すると、するどい目つきで森の方を睨みつけた。
「クリスタル王国の裏切り者。その罪、ここで死を持って償ってもらおう。」
ダリオはそう言うと、また呪文を唱えた。先ほどとは違う呪文のようだ。
「瞬間移動(テレポート)」
ダリオの姿がその場から消えた。その名の通り瞬間移動の呪文だったようだ。ダリオは、自分が仕える国、クリスタル王国に飛んだのだ。ダリオは、魔法、呪文の使い手のようである。
その頃、村。
「またどっかに行きやがったな。」
イグレ、タケルの義理の父親は目を覚ましていた。まだ夜も明けない時間である。何かを察知していたのか?何やら眠りが浅かったようだ。ツボの中に貯めていた水をすくって飲む。
「明日はあいつに、自分の出身国の話でもしてやるか。あんな事がなければ、いい国だった。」
ダリオはツボの中の水を見つめていった。水は鏡のようにダリオの顔を映す。昔を思い出し、悲しげな顔をしていた。