すると、悠は急に立ち止まった。
後ろから来ていた菜緒は気づかず、悠の背中にぶつかる。
「・・んぎゃっ」
菜緒は、少し悲鳴に近い声をあげた。
「あ・・・悠。ごめん」
そして、菜緒は目を開いた。
悠は、まだ前を向いたままだった。
「......悠?」
菜緒は悠の肩に手を置いた。
そして、菜緒は悠の顔を覗き込んだ。
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菜緒は、息を止めてしまった。
真顔な真剣な顔をしていた。
今までに見たことがないくらいだった。
驚いてしまったんだ。
悠は頬を赤くして、菜緒の方に振り返った。
「菜緒、俺の彼女だよな」
「えっ...」
菜緒の言葉が言い終わる前に、悠は...
菜緒に深いキスをした。
「...んっ」
悠は菜緒を抱きしめた。
「これが最後」
と言わないばかりに長いキスだった。
「...菜緒」
耳元で囁いた。
菜緒の心には深く残っていた。
「好きだよ」
悠が本気で言った言葉も・・・。
でも、これが
「最後のキス」
だなんて、菜緒は思いもしなかったんだ。
練習が続行された。
菜緒とのデートは終わり、熱い練習が待っていた。
俺は、炎天下の中、外に出る。
グラウンドを走り、ストレッチに体操。
終われば、キャッチボールをする。
フェンスに目を向ければ、いつも、菜緒がいる。
時々目が合うと、君は笑って手を振る。
俺も振り替えすから、顔が真っ赤になる。
「なに照れてんだよ」
とか
「練習中にまでイチャイチャすんなよ」
とか、同じ部員から言われた。
悪い気はしなかった。
菜緒は俺の彼女なんだし。
俺は、甲子園に行くため毎日練習を欠かさなかった。
雨が降っている日も、練習がない日も。
遊ぶヒマなんてなかったし、学校の帰りに一緒に帰るなんて出来なかった。
それでも、俺は夢中だった。
毎日遠くに飛ぶようになる球。
速くベースに届くようになる足。
俺は毎日が楽しくて仕方なかった。
更新されていくタイム、球があがる数。
速くなるにつれ、多くなるにつれ、俺はたまらなくなった。
「悠、最近頑張ってるな」
監督も俺のことを誉めた。
悪い気はちっともしない。
「ありがとうございます」
俺はキャップを取り、一礼した。
俺は朝早く起きて、グラウンドに向かう。
誰もいない静かなグラウンド。
練習中には見られない光景が、なんだか充実してみえた。
俺はひとり、フェンスに寄りかかった。
「空が・・・青いなぁ」
ボソっと呟く。
誰にも聞かれないほど、小さな声で。
そして、俺はフェンスの間にあるドアを開け、誰もいないグラウンドに入る。
俺は、いつもどおりにずんずん入っていった。
少し歩いて、立ち止まり空をみた。
俺はひとり、空想を始める。
目を瞑り、息を吸う。
「すぅ...」
これから、俺の空想が始まる。