目の前には、見事な黒髪が広がる。

指を通すと、絹糸のようだ。



「杏……どうした?」

「………」


尋ねると、さらに強く抱き着いてきた。

杏は無言のまま…腕の力を強めるだけ。



仕方ねぇな……。



髪を梳いていた手を、後頭部と腰にまわして、抱きしめた。




「………こがいい……」

「ん?」

「………だっこがいい」

「はいはい…」



相変わらず綿のように軽い杏を抱き上げて、ソファーに腰を下ろす。


俺の膝の上に杏を向き合う形で乗せ……また抱きしめた。



「これで良いでしょうか?かぐや」

「うん………」



返事は返ってきたが、抱き着く腕の力は落ちない。


余計に強くなったような気がする。