バイバーイと手を振る千香を見送ってから、のろのろと2人で駅に向かって歩いた。
(あ、歩くスピードぴったりだ。)
私自身、のろのろとしたタイプなので少し嬉しくなってしまった。
「佐藤さんって太らないタイプですか?」
いきなり話し掛けられたと思ったら、女子には禁句とも言える体重の話だった。
「え。乙女に体重の話しちゃいます?」
「はは。難しいね、乙女は。」
神田くんが乙女と言うと少し可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「神田くんは太らないタイプですか?」
「あ。男子に体重の話しちゃいます?」
「もう!」
「冗談です。僕は、部活やってるからギリギリキープって感じです。」
部活、か…。ちょっと意外かも?
「部活なにやってるんですか?」
「野球部です。あ、ちなみに、隆弘くんも一緒なんです。」
意外だ…。いや、意外すぎる!
「そんな、あからさまに意外だって顔しなくても…。」
「あっ、すいません…。」
「よく言われるから。」
ハハハ、と笑った神田くんは
僕、ひょろひょろだしね、と1人で頷いていた。
「うらましいな。細くて。」
「そうですか?でも、女の子って気にしすぎだと思うなぁ。僕は健康的なのが1番だけど。」
「乙女心ですよ、神田くん。」
「あぁ、なるほど。乙女ね、乙女。」
私達はくだらない話をしつつ、目的の駅に到着した。
「じゃあ、お疲れでした。」
「ふふ。お疲れでした。」
バイト後みたいな挨拶をしてきた彼がなんだか可笑しくて、同じように返事をして別れた。
電車に乗っている間、今日の事を思い出していた。
(男の子に送ってもらったの初めてだぁ…。)
まぁ、初めてが神田くんっていうのがちょっと微妙な気持ちだけど。
最初はちょっとムカついたけど、話してみると、面白いし意外と?紳士的な人みたい。
「楽しかったなぁ…。」
またあのケーキ屋行きたいな、とか次はモンブランだ!とか考えてると、カバンの中の携帯が震えた。
急いで携帯を開くと、画面には“千香”と表示されていた。
「もしもし?千香ー?」
ちょうど目的の駅について、電話を片手に電車を降りた。
「もしもし?ひな!どうなった?」
「え?どうなったって?何が?」
「だから!神田くんと。」
千香は呆れたように言うと、送ってもらったんでしょ、と続けた。
「うん。送ってもらったよ。」
「送ってもらったよ、じゃないよ!せっかく2人っきりにしたのにー。」
「は?!」
「気合ってたし、どうかなって思ったけどダメかぁ。」
「ダメに決まってるよ!気まずかったんだから。」
「ごめんね〜。ひな。」
「別にいいけどさぁ…。」
結局
恋とかそういう類のものは
生まれそうにないけど、
新しいタイプの人間に出会えた
嬉しさがあったから別にいいか。
「でも、神田くん本当に変わってたね。」
「でしょ。振り回されっぱなしだよー。」
「1人でスイーツ食べるって、なかなか勇気がいると思うし。」
「男の子だしね。」
「あっ。スイーツで思い出した。」
千香は何かを思い出した様で、電話の向こうから、ガサガサと音がした。
「あのね、今度ね。学校の近くに出来たケーキ屋でケーキのキャンペーンやるらしくて。」
「キャンペーン?!なに?!」
「えーっとね…。カップル限定のケーキがあるんだって。」
カップル…。
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
「あのー…。私、彼氏いない…。」
「わかってるってばぁ。あたしと隆弘と行こう?そしたら食べられるよ。」
「さ、3人で……?」
いくらスイーツの為とはいえ、カップルと一緒に出掛けられる程、私のハートは強くない。
「あー…。気まずい?」
「うーん。ちょっと、ね。」
千香は、うーん、と少し考えてからいきなり大きな声を出した。
「ど、どしたの?!」
「いい事思いついた!明日話す!じゃあね!」
千香は言いたい事だけ言うと一方的に電話を切ってしまった。
「えー…。」
少しばかり、なんだよー。と思ってしまった。
「いい事、か。」
正直、千香の言う“いい事”は
今までいい事だった事がない。
例えば、学校の掃除をサボる作戦だとか、抜け道を思いついたりだとか。
結局、掃除の作戦は失敗に終わったし、抜け道はガタガタの道を歩かされた。
だけど、千香といると先生に怒られたって、ガタガタの道だって楽しくてしょうがなかった。
「今回は期待してみよっかな。」
少しウキウキ気味に家へ帰った。
―次の日…
「千香ー。いい事ってなによ。」
学校に着くなり、1番に千香の元へ向かった。
「今度こそいい事だよー?」
「本当に?」
「絶対!自信あるから。」
千香は机の上に昨日言っていたチラシをバンッと置いた。
「ふふ。あのね―…」