キミ専用テレパシー





「あの、誤解しないで欲しいから言いますけど、彼女とは…もう何もないですから。」


「“もう”…ですか。」



私って、本当に嫌な女だなぁ。


明らかに困っている様子の神田くんを見て、泣きたくなった。



「本当に君は…。変な所で耳が良いんだから。そうですよ、“もう”です。」



“もう”の中に彼の気持ちがたくさん詰まっている気がして、胸がギュッと締め付けられた。


すると、神田くんは遠い目をしながら雪ちゃんの事を話してくれた。







「彼女は、確かに僕の前の恋人だけど、それは昔の話だから。あっさりフラれちゃいました。」


「え、そうなんですか…。」


「ふふ、そうです。好きな人が出来たらしくて、あっさり。あまり一緒にいてあげられなかったし、仕方ないですけど。」



神田くんは、小さく微笑みながら眉毛を下げて、ため息をついた。

本当に大好きだったんだなぁ。

神田くんは、感情が顔に出ないから、雪ちゃんが不安になるのもわかる気がした。



「大好きだったんですね、本当に。」


「僕なりに愛してたんだけどな…。やっぱり乙女は難しいよ。わからない。」


「まぁ、神田くんは変り者ですから、もっと謎ですけどね。」


「むむ…、なんだと。君には言われなくないな。そんな事言うなら…」



神田くんはそう言うと、カバンの中から何かを取り出し始めた。






「生意気な事ばかり言う君には“これ”あげませんよ。」


「え?」



神田くんがベッドの上に置いたのは2枚のチケットだった。



「何ですか?これ。」


「水族館のチケットです。知り合いから頂いたんですけど、一緒にどうですか?」


まさか、これってデート…?


スイーツを理由に出掛けた事はあるけど、普通に遊びに誘われたのは初めてで、正直すごく驚いた。


「いいんですか?せっかくのチケットなのに、私なんかと一緒で。」


「ほら、そんな事言ってないでさ。今日のお礼ですから。」


「じゃあ、お言葉に甘えちゃいます!」


「じゃあ、お言葉に甘えられます。」


2人で変な会話をしながら、予定を立てていると、とっても大事な事に気づいてしまった。







「あ、そういえば!試合どうでしたか?」


1番大切な事なのに…!
すっかり忘れていた私を、神田くんは怒ることもなく、呆れることもなく


「ちゃんと勝ちましたよ。」


と、ニッコリ笑って言った。


「わぁ!おめでとうございます!よかったですね。」


「うん、ありがとう。」


「でも、いいんですか?試合あるのに水族館行ったりして。」


「あぁ、はい。次の試合までちょっとだけ間があるから平気ですよ。たまには、僕だって息抜きしたいですから。」

「ふふ、了解しました。」



それから、今日の試合の話を聞いたり、お弁当の話をしたりしてから、神田くんは帰って行った。







神田くんが帰った後、キッチンに行くとルンルンな人が一名…。



「お、お母さん?」


「ひなちゃんの彼氏くん、イケメン♪」


お玉をフリフリ。微妙なリズムで歌うお母さん。


「彼氏じゃないよー。」


「え〜!彼氏じゃないの?」


「うん、友達だよ。」


「残念だわ。あんないい子が、ひなちゃんの彼氏だったら嬉しいのに〜。」


机の隅を見ると、ケーキ屋さんの箱が1つ。



「お母さん、これどうしたの?」


「イケメンくんが、皆さんでどうぞ、って持って来てくれたのよ♪」

「え、神田くんが?」



もう…本当に。何から何まで…。
色々な物をもらってばかりで申し訳ないなぁ。

今度、お返ししないと!



「ひなちゃん、お礼のメールしといてね〜。」


「はぁーい。」





神田くんって、すーっごくサービス精神旺盛な人だよなぁ。

私なんて、貰ってばかりで何も出来てない!

肝心な時に、体調崩すし。
本当に役たたずだぁ…、トホホ。


少ししょんぼりしながら部屋に戻って、神田くんにメールをしようと携帯を手に取ると、ちょうど電話が鳴った。



「もしもし?」


「千香だよー、体調どう?」


電話の相手は千香で、今日の試合の内容を大まかに教えてくれた。

「ごめんね。行けなくて。」


「気にしないで〜、ひなの分も応援してきたからね!バッチリ。」


「うん!ありがとう。」


「そうそう!ところでさ…。」






「夕方あたりに誰か来なかった?」


「夕方?あっ、来たよ。神田くん。」


「うっそ!やっぱりかぁ~。」


「やっぱり?」


千香は神田くんがお見舞いに来た事を知っていて、電話の向こうでクスクス笑っていた。



「いや、今日ね?あたし、神田くんにひなが熱出したよ~、って言ったの。そしたら、家の場所聞かれたから、まさか!と思って。」


「そういう事だったんだぁ…。」


「なんか、ひなに用事あったみたいだし。で?なんだったの?」


用事、と聞いて一番最初に思い浮かんだのは、"雪ちゃん"の事だった。


「この間の元カノさんの事で謝られちゃった。勝手に気にしたりした私が悪いのに…。」


「いや、気にして当然だって~。ひなは、優しすぎなんだよ。」





「でも…」


「大丈夫!昔は昔、今は今なんだから。

それに、何とも思ってなかったらわざわざお見舞いなんて行かないと思うよ?」


やっぱり千香は頼りになるなぁ。

私の悩みとか、考え事は何でも千香にはお見通しで、千香によると、私の顔に悩みが書いてあるとか。


「ひな、神田くんの事好きなら頑張ってみたら?」


「あの、千香にまだ言ってなかったんだけど…。実は、私…」


神田くんを好きになった事
まだ千香に話してないから。
ちゃんと言わなきゃ。


「神田くんの事好きなんでしょ?気付いてたよ〜!わかりやすいもん、ひな。」


「え!そうなの!?」


「応援してるからね〜!頑張ろうね。」


「うん!私、頑張ってみるね。アドバイスよろしくです…。」





「任せて!隆弘も協力するからさ。」


「え!隆弘くんも気付いてたの?」


「あたしらナメてもらっちゃ困るよ〜。」


恐るべし、あのカップル!
何でも筒抜けで恥ずかしい…。


「参りました…!!」


「まぁ、あたしらが色々しなくても時間の問題かな、って思う。」


「え?」


「神田くんも、ひなの事良く思ってるみたいだし、あとちょっとだと思うよ〜。」


「そうなのかなぁ…。」


正直、前よりはたくさん話せるようになってきたと思うし、仲良くなれてるかな?とも思う。

でも、恋愛対象としてはどうなんだろう。