神田くんは突然、私をジーッと見てきた。
「な、なんですか。」
「うーん。やっぱり興味がわかない。」
はぁ?!
人の顔見て"興味がない"って本当に失礼なヤツ!
「あの、私。別に彼氏が欲しくて来たんじゃないですけど。」
「知ってますよ。すごく嫌そうだし。」
「チーズケーキの為なので!」
私が大真面目にビシッと言うと、神田くんは少し笑って、これまた大真面目な顔で答える。
「僕もチーズケーキ好きです。」
と、今日1番の笑顔で言われた。
(テンションの上がるポイントが全然わからない……。)
「駅前のケーキ屋さん行った事あります?」
「ありますよ。レアチーズケーキが…」
「ですよね!!!!」
急に凄い勢いで言われたので、びっくりしてしまった。
「す、好きなんですか?」
「はい。いつも行くから。」
「あの、誰と…?」
まさか、隆弘くんと…?!なんて思ったので、聞いてみた。
「もちろん、1人で。」
安心したような、してないような…。
「今、君"男が1人で…?"って思いましたよね?絶対。」
「いや、別に。」
(うわ、バレてる…!)
「大丈夫です。母親にも耳にタコが出来るくらい言われてるから。」
話してわかった事。
神田くんは、超がつく程のスイーツ好きらしい。
それと、超がつく程の変人らしい。
「で?神田くんってそんな変な人なの?」
次の日の昼休み。
私は昨日の事を千香に話した。
結局、昨日は不思議すぎる神田くんに振り回されて、ヘトヘトだった。
「本人は悪気はないみたいなんだけどさ、さらーっと毒吐くんだよねぇ。」
「顔は超かっこいいのにー。」
「そうなの!顔はいいんだけどね、顔は。」
確かに顔はかっこいい。目も大きかったし、まつ毛も長かった。
「けど、性格に問題アリだね。」
「おかしいなぁ。隆弘はいい奴だって言ってたよ?彼のこと。」
「チーズケーキにやたら食い付くし、テンション上がるポイントわかんないし、全然読めないもん。行動が。」
「あっ。そういえば!千香〜。チーズケーキ!!」
「ぐはっ。忘れてなかったか…。」
「約束だもんね〜。」
「わかった、わかった。今日行こう?」
「やった♪いっぱい食ってやる。」
「こら、女の子が食うとか言わないの!」
「はい!」
元気よく返事をしたまではよかった…。
よかったんだけど……。
「あ、神田くんだ!」
放課後に駅前のケーキ屋に千香と行った。
すると、そこには1人でケーキを食べている神田くんの姿があった。
「あ、こんにちは。」
「あれ?1人?」
神田くんは、もちろん、といった様子で頷いた。
「あっ、一緒にいいかな?」
「ちょっと千香!」
千香は必死に止める私を無視して
「いいよね?」と神田くんに聞く。
「別に構わないけど、僕は。」
(千香のばかぁ〜)
千香は小声で
「どんなに変な人か見たいの!」
と笑っていた。
「1人で来るんだね〜。」
神田くんは紅茶をすすりながら、コクリと頷いた。
「甘い物は1人で楽しむのが一番だから。」
「え、ウソ!ごめんね?邪魔して。」
「あ、別に気にしないで。たまには僕だって喋りたくなるし。」
千香と神田くんが、盛り上がりつつあったので、ちょっと置いてきぼりをくらった気分になった。
それからチーズケーキを2つと、紅茶を頼んでおしゃべりを続けた。
「この間はごめんね〜。無理やり。」
「あ、楽しかったですよ。佐藤さんが話し相手になってくれたから。」
すると、神田くんは
無表情に近い顔をグッと私に近づけてきた。
「ぎゃ!な、なに?!」
「ほら、リアクションもおもしろい。」
本人はおもしろいなぁ、と思っているみたいだけど、誰が見ても今、神田くんは無表情だろう。
「びっくりしたじゃないですか!」
「僕は君にびっくりしなさい、って言った訳じゃないです。君が勝手にびっくりしたんです。」
「はぁ?」
私達のやりとりを見て、クスクスと千香が笑いだした。
「神田くんとひなって結構気合うかもよ?
スイーツ好きなとことか、訳わかんないやりとり成立するとことか。」
「仲良くなっちゃえば?」
千香はニヤニヤしながら、紅茶をゆっくりすすった。
「僕、女の子の友達いらないから。」
「ありゃ、これまたバッサリ。」
黙って聞いていた私は、神田くんの一言で、告白をしてないのにフラれたような気分にされてしまった。
「わ、私だっていらないもん。」
「あ、また佐藤さんと気が合ったね。」
目の前でケラケラと笑う神田くんは
一応、悪気はないみたいだけど。
なんか憎めないっていうか…。
「まぁ、君が性別を変えるって時は考えるかもしれないけど。」
ちょっと待って。訂正。
やっぱりムカつく!!