沢山の本の中からようやく真新しい表紙の日記帳を掘り出した。
「あった…」
表紙にうっすら被った埃を掃い除けると
部屋のドアをノックする音に一瞬体がビクつく。
「真理子?」
返事をするようにドアを開けた真理子がお腹のあたりを触りながら物悲しそうな顔で私を見ていた。
「もうお腹…空いたの?」
「もうって…もう夜だよ?」
「えっ?もうそんな時間っ?!」
お父さんの部屋で一体、何時間過ごしていたのだろうか
日記を床に置いて慌てて夕食を作りに台所に向かった。
あれからまだ開く事のできなかったお父さんの日記を片手に
真理子の手を片手に引いて
しがらみの鎖に縛られたこの家を後にした。
エピソード23
一生に一度しかない人生で
どれだけの生命が自分の生きた足跡に誇りを持って朽ちていくのだろう。
生命の誕生も
生命の終わりも
ほんの一瞬の出来事で
その刹那に
何を思うのだろう。
この一度しかない人生で
心から愛する人に出会える確率はどれくらいなんだろう。
×月×日
このところ体の調子がいまいちな時
飯島と数年ぶりに再開した。
この数年、飯島に罪をかぶせる事が何とか生きる糧になっていたというのに
運命とは実に皮肉なものだ。
飯島は私にはもう一度、共に働く事を持ち掛けてきた。
私はひどく混乱した頭で過去の罪を思い出していた。
あの頃、会社が傾いていたのは私のせいだ。
それを立て直してくれた飯島に
会社を奪われたと罪をなすりつけて
現実から逃避した私に
それでも飯島は昔のように手を差し延べてくれた。
私が腐ってく一方で
何ら変わらなく、昔と同じように輝く飯島を妬ましく思うようになったのはいつ頃だろか…
この体がいつまで持続するだろうか…
そんな暗闇の中で浮かんだのは娘達の顔だった。
娘達だけでも
どうか幸せに…