「君の『心の愛』を」
「心の…愛?」
「あの頃の君はまだ幼かった。
けれど今は違うよね…?」
「どういう意味?」
私の問いに残念そうにため息をついた知也がガックリとしゃがみ込んだ。
「莉子…待つよ。」
「待つって…」
「何度も言うさ。
俺は今だって莉子と真理子を待ってる。」
「とも…」
彼の背中に手を伸ばそうとした
「お姉ちゃん?」
真琴の私を呼ぶ声に驚いて
何も言葉を返せないまま
その場を離れた。
知也は…
今も私を待っていてくれてる。
私を…
今も
愛してくれている…?
エピソード22
真琴が飯島家に花嫁修業として旅立つ早朝。
こんな朝早く起きたのは久しぶりで
頭がまだ重たい。
真理子を起こさないようにそっと部屋を出て
真琴の寝室のドアをノックした。
「入っていいよ。」
早朝から澄んだ真琴の声。
ゆっくりドアを開くと
小綺麗に化粧をした真琴が凛とした立ち姿で私を出迎えた。
その姿に息を飲んだのは
黒く長い髪をクルっと巻いて
真っ赤な口紅をつけたその姿が
まるで
あの女そのものだったから。
「ど、どうしたの?」
「だって、せっかく旦那様になる人の家に出向くんだから…化粧くらいしないとね。」
照れ臭そうに笑った真琴が続けて言った。
「…お母さんに似てるかな?」
「お母さんは…真っ赤な口紅よりも
淡いイメージのある人だったよ…」
お母さんの笑顔を思い浮かべながら言うと
真琴は焦って言い直した。
「本当のお母さんじゃないほう。」って。
「ああ…」
あの女か。
「似てるよ。あまりに似すぎてて幽霊でも見たんじゃないかって思ったもん。」
そう
真琴にとっての『お母さん』はあの頃も
今も変わらずあの女なんだ。
「良かった。」
「あの人に似せるように化粧したの?」
「だってさ、半分もう嫁ぎに行くようなもんじゃない?
それならお母さんがついててくれたら心細くないっていうか…」
しどろもどろな真琴に寄り添って頭を寄せた。