母上は分かっていた。
蒼刃のあの顔を見た瞬間に。

『このままでは蒼刃の心は壊れてしまう』と。

だから記憶を消したのだ。
もうこの地に戻ってくることはないと踏んで。



「母上が使った魔法はね、ある意味期間限定なんだ。
解ける時も設定しないと使えない。」

「解ける時…?」

「簡単に言うと…このアメには『この国に戻ってきたら』魔法が解けるように設定されていたってことだよ。
母さんは…僕たちがこの国に戻ることなんて予想してなかったんだ。」

「…蒼刃を守るために…。」

「多分ね。蒼刃を守るのと同時に僕も守ろうとしてくれていたんだと思うけど。
このアメにはおそらく同じ魔法がかかっている。
僕と蒼刃がこの国の最期…そして父上の最期を『誤認』するような魔法がね。」

「でも…魔法は解けてしまった…。」

「そう。
だから…もう…知らなかった頃には戻れない。
なかったことには…出来ない。」



もう…どんなに泣いても叫んでも戻れない。
僕たちが故郷に帰れなかったのと同じだ。
もう…戻れない。

蒼刃は知ってしまった。
父上の最期も。
そしてきっと、誤解するだろう。

『自分のせいで、父上が死んだ』と。

目覚めたら、鋭い痛みが全身を襲う。
イアルの言葉がきっと、突き刺さる。