時が止まった。

そんな経験はしたことがなかったけど、その時は瞬時にそうだと分かった。


「母上!!」

「緑志!!無事だったのね?
ああ…蒼刃…。」



母上は血まみれで動かない蒼刃を抱きしめた。
優しく…傷を癒すように。



「お父様は…蒼刃を守ったのね。」

「…。」



僕は何も言えなかった。
こんな父の最期を見るなんて…思っていなかったから。



「私の力はもう30秒ももたないわ。
…あとは母さんが何とかするから、あなたたちは逃げなさい。」

「逃げるって…だめだよ。
この二人相手に一人じゃ…。」

「これを食べなさい。」


ふわっと浮かんできたのはアメだった。


「いい?蒼刃、これを食べなさい。そして緑志もよ?」

「いい。い…いらない!!」

「母さんの言うことを聞きなさい、緑志。
あなたたちを死なせるわけにはいかないのよ。
それがお父様の…遺言だから。」


そう言って母上は優しく微笑んだ。