「あ…あたしだってなんで泣いてるのか全然…。」

「…夢でも見たか?」

「…夢…。」

「…話してみろよ。」

「…夢…なのか分からないの。」

「え?」

「あれが…夢だったのか…自分じゃよく分からない。
あれは…あたしの…記憶…なのかもしれない…。」

「記憶?」

「あたし…には…お兄様がいた…。」

「兄貴?」

「うん。夢の中の…あたしが…泣きながら止めてた。お兄様がしようとしてること…。
でも何をしようとしてたのか分からない…。
…そこで夢の中のあたしの意識は途切れて…目が覚めた…けど…。」

「…んでその夢を引いて泣いてたっつーわけか。」

「…なんで涙なんか…。」

「…本物の兄貴だからじゃね?」

「え?」

「お前には兄貴がいるよ、確かに。」

「え…?ってなんで知って…。」

「…俺も一応王家の人間だからな。」

「蒼刃って皇子なの…?」

「お前だってガラにもなく姫だろうが。
なんか文句あんのかよ?」

「べっ…別に文句なんて言ってないじゃん!!」

「その言い方が不満げなんだよ。」

「だって皇子様ってガラじゃないなんだもん、蒼刃って…。」

「んなもん俺だって分かってるよ。」


あたしたちは顔を見合わせて笑った。
泣いてたはずなのに、不思議なくらいに自然と零れてきた笑み。