六人が参拝しようと歩き出すと、駐車場に止めてあるタクシーに女性が一人乗り込もうとしていて、何気なく車のナンバーを見た紀恵お婆ちゃんが

「え~、京都ナンバーよ」
と声を上げた。

それを見た真知子お婆ちゃんが、遠い所からタクシーで女性が一人で来ているのに驚いて

「京都から、わざわざタクシーで来て巡拝をしているのですか」

と乗り込もうとしていた女性に声を掛けた。

すると半開きだった運転席のドアを開けて、中から運転手が出てきて

「そうなんです。京都から来ました。でも客は女房なんですよ」

とにっこり微笑みながら言った。

「私は京都で個人タクシーをしていまして、時間ができると、こうして女房と二人で八十八ヶ所巡りをしているんです。今までに香川県と徳島県の札所全部と愛媛県の瀬戸内海側の札所は全部打ち終わっていて、今回は初めて高知県に来たんです」

と行った後、名刺を六人に配り始めた。

名刺には、個人タクシー宮西博司と書いてあり、タクシーの横には宮西タクシーと看板が書いてある。

「今回は一泊二日で室戸から高知市内を巡って帰るつもりなんです。時々ナンバーを見て驚かれる人がおられて、客は女房だと説明すると、な~んだって答えます」

紀恵お婆ちゃんが
「そりゃ、驚くわよ。京都から、わざわざタクシーで来て巡拝しているなんて・・・」

「でも、こっちで走っている時に乗せてくれっていう人はいないの」
と訊くと

「客の振りをしているというわけでもないのですが、一応、女房が乗っていますからねぇ。賃走状態だと思って、私を止める人も今までは居ませんでした」
と宮西は答えた。