そこには自分自身でケーブルカーを操り下りて、谷底に湧いている露天風呂に入れる温泉があり、それ以外の方法では谷底の露天温泉には、行き着けない。

三人とも、おそらく他の所では経験できないであろう、ケーブルカーで下りて入れる大峡谷の底の露天温泉を楽しみにしていたのだった。

ところが大雨になり、川が増水して危険なので、本日は中止であると知り、がっかりとした。

だがホテルから見える景色は、雨に煙ってはいるものの雄大で、満足であった。

目の前に見える山の頂から谷底までは、千メートルはあるそうで、非常に深いV字谷になっている。ホテルから見える山の頂は、遥かに高く、谷底は大変な深さであった。

雨は激しく降り続き、翌朝、三人が目覚めた時には、轟轟と流れている谷底の川の水の音が聞こえた。

朝のニュースでは、東シナ海で消息を絶った船の物と思われる浮遊物が発見されたが、未だに、それ以外には発見されたものは無く、行方不明であると言っていた。

出発は、いつもよりは、のんびりとしていて午前九時を過ぎていた。

三人は石の博物館や道の駅に立ち寄りながら、お婆ちゃんたちと待ち合わせ予定の三十番を目指して進み、午後一時十分前に、到着した時には雨は降り止んでいた。

五分も待たないうちに、お婆ちゃんたちも到着し、芙美子お婆ちゃんが

「けっこう降ったでしょう」
と車から降りてきて勇太に言うと

「そうですねぇ、降りましたねぇ。そういえば、お婆ちゃんの言った通りでした。あれだけ川から高い位置にある国道まで増水して溢れてくるとは、信じられませんでした」

「そうでしょう。四国山地の雨はすごいのよ」
と芙美子お婆ちゃんは言った。