後ろから、ついてゆく車を運転している勇太もクラクションを鳴らして合図をし、隣の助手席の理絵は両手を振っている。前の車を見ると芙美子お婆ちゃんもリアウインド越しに、こちらに向かって手を振っている。

由紀が、後部座席から勇太と理絵の間に割り込むように顔を突き出してきて、前をゆく、お婆ちゃんたちの乗る車に向かって手を振りながら大きな声で

「気をつけてね」

と叫ぶので、理絵が

「窓を開けて叫ばないと聞こえないわよ」
と由紀に言った。

由紀たちは、京柱峠へ、くねくねとうねった細い道を上って行く。運転をしている勇太が

「道が細くて怖いね。ガードレールが無い所も多いし、雨で路面が濡れているし」

聞いた由紀が

「気をつけてね。スピード出さなくていいわよ」
と不安そうであった。

京柱峠に着いて車から降りて、周囲の景色を見渡すと素晴らしい風景が広がっている。峠から西の方向を見渡すと、出発した梶ヶ森の山頂付近に雲が掛かっていて、その雲が、ゆっくりと山肌を流れている。

梶ヶ森と峠の間の谷沿いに、山々が左右から交互に重なり合って、遠くはかすみ、距離が峠に近づくほどに、はっきりと見えてくる。

まるで墨絵の世界である。

同様に東の方向にも雄大な墨絵の世界が広がっている。

その東の方向に見える谷の北側の山よりも、南側の山の方が高く、ひときわ高い山があり、理絵がその山を指差して

「あの高い山が剣山かなぁ」

勇太も、その高い山を見て

「たぶんそうだね。それにしても墨絵のような景色だね」
と周りを見渡しながら