少しの時間、六人はたたずんで夜空を見上げ、話をしながら状況を見ていたが、さすがに千四百メートルの山の上は寒くて、すぐに建物の中に逃げ込んだ。

ロビーのソファに腰掛けて、紀恵お婆ちゃんが

「このぶんじゃ、今夜は見られないかもね」
と残念そうに言った。

いったん部屋に戻り、午後八時前に、全員がロビーに集合した。

由紀たち以外にも七、八人が待っていて、合わせると十数人がロビーに集合している。

そこへフロントの奥から天文台の職員が出てきて

「お集まりのみなさん、申し訳ありませんが、本日の星の観測会は中止と致します。外はガスと雲の影響により、ほとんど星が見える状況にありません。よりまして星の観測は不可能だと判断致しました。今夜は中止となりましたが、またどうぞ天気の良い時におこし下さい」

と発表があり、残念ではあるが、仕方なく全員、部屋に戻ることにした。戻りながら由紀が

「泣く子と天気には勝てないわね」

と言ったのを聞いていて、お婆ちゃんたちは

「そんなことわざだったかしら」
とか

「何か違うわねぇ」
とか言っていたが、みんな本当のことわざを思い出せないまま、首をひねりながら、部屋に戻って行った。


翌朝、午前八時過ぎに出発しようと玄関から外に出ると、辺りは深いガスに包まれていて雨が降っている。

山を下り丁字路の分かれ道に差し掛かり、お婆ちゃんたちは左へ曲がり、国道三十二号線へ向かい、由紀たちは右に曲がり京柱峠へ向かった。

別れ際、先を行く車の運転をしている真知子お婆ちゃんがクラクションを鳴らし、紀恵お婆ちゃんが車窓から手を振っている。