「車を運転していても前が雨でよく見えないの。よくバケツをひっくり返したような雨って表現するけど、全くその通りなの。本当よ。亡くなった父が、昔、言っていたんだけど、父が若い頃、まだ早明浦ダムっていう大きなダムが完成する前に、大歩危、小歩危、辺りを流れている吉野川の水が溢れて、国道が水に浸かって通行止めになった事があるんだって」

「明日、行って見ると分かると思うけど国道から下を流れている吉野川の川面までは、ざっと二十メートル以上はあって、国道は、川からは結構、高い位置を通っているの。それが水に浸かった事があるって聞いた時には信じられなかったくらい高い位置なのよ。それだけ凄い雨が降る事もあるぐらいだから、本当に気をつけてね」

しかし、聞いていた勇太にはロケーションが分からず、どうもピンとこない。まあ明日行ってみれば実感するだろうと

「雨のドライブは充分気をつけます」
とだけ返事した。

明日はお婆ちゃんたち三人は、池田町の芙美子お婆ちゃんの家を訪ね、泊まる予定になっている。

由紀たちは、京柱峠を通り、山奥にある二重かずら橋を見てから、下流にある観光客がよく行く、かずら橋や大歩危を観光した後、祖谷渓にある温泉で泊まる予定である。

明日は三人ずつ別行動となり、明後日の午後一時に三十番善楽寺で落ち合う予定にしている。

夕食が終わり、外に出てみると、少しガスが出てきているのか、もやっている。

上空を見あげると僅かに星がガスの切れ間から覗くものの、すぐにガスの流れにより掻き消されてしまう。