その頃には雲が少しずつ増えてきていた。

梶ヶ森山荘に向かう途中で、昔の昭和の時代に大歌手であった、美空ひばりが勇気をもらったと謂れのある、杉の大木を見に立ち寄り、山荘に到着したのは午後五時頃であった。

理絵が車から降りて、空を見て

「すごい、雲が低い・・・ていうか空が近い」

と驚いたように言っている。

梶ヶ森山荘は標高千四百メートルの位置にあり、浮かんでいる雲が、すぐ近くに感じられ、低い所に浮かんでいる雲には、手が届きそうなくらいである。

山荘の少し先が山頂で、山頂には小さな建物とアンテナが立っている。

山荘にチェックインした時には、まだ晴れ間が少し残っていたものの、今夜の星が見られるまで天気が持ってくれるか不安であった。

フロントでチェックインの手続きをする時に、今夜の八時から行なわれる予定の、天文台での星の観測会に出ようと、申し込みをしたのであるが、フロントの人に

「今夜は天気が下り坂なので、もしも星が見られない場合は中止となります。とりあえず午後八時十分前くらいには、ロビーにお集まり下さい」

と言われて、紀恵お婆ちゃんが、最新の天気予報はどうなっているのかフロントの人に問うと

「午後三時の天気予報によると、午後六時以降の降水確率は五十パーセントになっていましたが、どの程度、雲が出てくるかは判断しかねますし、なにぶん高い山の上ですので、天気が下り坂の時はガスが出てくることもあり、今夜は星が見られるかどうかは、運次第だと思います」

と返答があった。紀恵おばあちゃんは

「そうねぇ・・・自然が相手だから仕方ないわよね。運しかないわね、今夜は・・・」
と納得した。