翌朝、六人は宿の人に見送られて千本山に向かった。

途中にある魚梁瀬ダムの展望所で車を止めて、景色を眺めようと車から降りて展望所に立つと、展望所から南側の五、六メートル下の斜面で、日向ぼっこでもしていたのであろうかニホンザルが数匹座っていたのだが、人影を見ると突然、森の中に逃げ込んだ。

六人は野生の猿を見るのは初めてであり、喜ぶと同時に驚いた。

由紀が嬉しそうに

「ちゅっちゅっちゅっ・・・ちゅっちゅっちゅっ」

と舌打ちして呼ぶのを理絵が

「お母さん、呼ぶの、やめてよ。こっちへ向かって来たら怖いよ」

と言うのと、ほぼ同時に、十数メートル離れた所の木が大きく揺さぶられて、雄叫びが聞こえた。

見ると、ボス猿と思われる大きな猿が、こちらを睨みながら威嚇の声を上げた。

それを見た全員が

「怖~い・・・由紀さんやめてよ」
と口々に言った。

猿は十数メートル離れた森の中に何匹居るのかは分からないが、結構、声が聞こえてくるので群れのようである。ただこちらに向かって近づいて来る気配も無く、猿たちにすれば、のんびりしていた所に来た、迷惑な人間どもだと、いったところであろう。

展望所から北側の湖の方を見やると、美しい景色が広がっている。

深い山と五月の透明感のある新緑に包まれて、青い水をたたえた湖が、目の前に広がっている。岬と入り江が入り組んでいて、島も浮かんでいる。遥か彼方に橋が架かり、小さな町のある様子が見える。

「きれいねぇ・・・」

誰ということなく、言葉が出てくる。

六人は展望所から見えていた小さな町を抜け、千本山登山口へと向かう。