「実は人食いアメゴが住んでいる谷川があるのです」

これには、みんな信用せずに、一斉に言った。

「まっさかぁ~」

宿の人は

「みなさん嘘だと思っているかも知れないけど、もし谷川で誰か居なくなったら、人食いアメゴに食べられたのだと思って下さいね」

と言ったので由紀が

「え~、何となく怖いわねぇ。もし人食いアメゴが出ればどうすればいいの」

と宿の人に、なかば真剣な顔つきで訊いている。

「もしも大きなアメゴを見つけたら近寄らないで下さい。昔、大きなアメゴを捕まえた漁師がお腹を切り裂いたら人間の手が出てきたという話です」

由紀は、恐ろしくなって

「私、絶対に川には近寄らないわ」

と言ったので、みんなは、くすくすと笑って、芙美子お婆ちゃんが冗談で

「そうそう、私も川には近寄らないようにしなくちゃ」

と言うと、みんなは笑いを、こらえるのに必死であった。

楽しい夕食が終わり、宿の人に明日、持っていく弁当を頼み、お婆ちゃんたちと由紀たちは、それぞれの部屋に戻った。

由紀は、気をきかして理絵や勇太とは別の部屋を取ろうとしたのだが、理絵と勇太は、ホテルで泊まる時は別々でよいが、和室しかない温泉とか旅館では一緒の部屋でいいですよと言うので、同じ部屋に入ることにしたのだった。