幼なじみなんてッ!〜近くて遠いアイ・ラブ・ユー〜



………ん?



「でもお前、花音を抱きしめてなかったか?」



「いやーあれは出来心っていうの?つい泣いてる花音を見たらさー」



おいおい。美羽は本当に、こんなやつでいいのかよ。


「確かにあれは反則だよねー。彼女がいるのに他の女子、抱きしめるなんて。」


「い、いや、あれは本当に悪かったって。」



ふっ…。こんなに焦った蓮は初めて見た。



「と、とにかく、俺は入学当初から美羽を見てきたんだし、いまさら他の女にいくとかありえねーから。」


…ん?



あの時屋上で話してたことは美羽のことだったのか?!






はあぁ――…



つまり俺たちは最初からこいつらの罠に嵌ってたってことか………



「んじゃー俺ら、帰るわ。役目も果たした事だし。」


「花音のことよろしくね。今もまだ理解でき無いみたいで、呆けてるみたいだし。」



………そう言えば、さっきから反応がないな。



隣を見ると明らかに違う世界に飛んでいってしまっている様子の花音。




そんな花音をよそに、二人は仲良く帰っていってしまった。



「おーい。花音。」



「………」



反応なし…………







そんなにショックだったのか?



……もしかして?!!



「花音!お前、ちょっと蓮に気持ちが揺らいでたんじゃないか?!!」



「……っえっ!違う!違うから!!」



でもこの様子って………




「ほんとに違うの!!ただ………」



そこで口ごもる花音




「………ただ?」



「ちょっとびっくりしちゃって…。美羽、本当に蓮のこと好きそうだったから……」



そんなの、俺だって同じだ。


蓮は本気で花音を好きだと思ってた…



まぁ―、その時点で俺は蓮の罠に完璧にハマっていたんだな……



でも今にしては2人に感謝してる……


花音と両思いになれたんだから……




サンキューな…。






「花音――」



「うわっ!!」



ドシっと背中に感じる重さ


「……美羽」



棗と付き合うようになって1ヶ月が過ぎようとしていた……




あれから周りにあたしたちは付き合い始めたことを話して無事にそれをクラスメイトみんなが喜んでくれた。



棗は人気者で正直、反発がちょっとはあるかなって心配してたけど……




「「「やっぱりね〜〜。棗くんも花音ちゃんも両思いなのに鈍すぎ!」」



クラス全員に気持ちはバレちゃってたみたいで……





特にクラスメイトからの反発はなかった。



…………そう。クラスメイトからは……







「あぁ―もう!ウゼっ!着いて来んな!!」



「えぇ―。イヤですよ―。どこまでも着いていきます♪」



また来たのか……



棗の腕をしっかり握って、離そうとしないこの子……



神谷紗月[かみや さつき]


あたしたちの一つ下で、男遊びが激しいって入学から話題を呼んでいた



男を呼び寄せるだけあって、顔は整ってるし、スタイルだっていい……




あたしと棗が付き合うようになってから、異様に付きまとってきた紗月ちゃん




「花音っ。また来てるじゃん!」



「あっ…。うん。そうだね」


「そうだね。じゃないわよ!人の彼氏に何なのあれ!!ほら!花音も何とか言って来なさいよ!」



「で…でも……」




いつもは強気なあたし



でも実際は紗月ちゃんと自分を比べて、落ち込んでるぐらいひ弱……






言いたいけど……


重い女って思われたらどうしよう、とか……




本当は棗も嬉しいんじゃないか、とか……



そんなイヤな方にしか、考えが浮かばない……



「もぉ―!だったらあたしが言ってくる!!」



そう言って、棗と紗月ちゃんの方に歩き出した美羽



「ちょっ!ちょっと美羽!?」


「ちょっとあんた!」



「はい?」




うわぁぁぁ――



声かけちゃったよ――っ



「毎回、毎回、人のクラスまで入ってきて、正直迷惑なんだけど!」



強気な美羽に対して、クリっとした目をしっかり美羽に向けた紗月ちゃん




「じゃあ場所変えますね♪行きましょ。先輩♪」



は…い……?


そう言って棗の腕を引く





「そういう問題じゃないでしょ!いい?そいつはここにいる花音の彼氏なの!」



美羽の声に、クラス中の注目が集まる



「だから、何ですか?」



「……はあ?」



まさかの返答に、苛立ちを覚えている美羽



「“今は"でしょ?これからあたしが、棗先輩の彼女になりますから。」



ニッコリ笑って、棗の腕に自分の腕を絡める


っっ……


「ちょっ!おいっ。やめろって!!」



「えぇ―。何でですか―。あっ、もしかして照れてんの―?可愛い―っ」



「バカっ!ちげ―よ。」




周りから見たら、ただのバカップルにしか見えない2人




嫌がってる割には…なんか嬉しそうじゃん。



だんだんイライラが募ってくる



「行こ。美羽」


「えっ。ちょっと花音!?」





美羽の手を引っ張って、教室を出た



もうすぐ授業は始まるっていうのに、教室を出るあたし……



「ちょっと――。花音―」



後ろからあたしを追いかけてくる美羽



それを無視して、足早に屋上へ行った




「もぉ―花音。あんたはいっつも強がるんだから!」



追い付いた美羽が、身体を小さくして座り込んでいるあたしの横に、寄り添うようにして座った



「だって……」



自信ないんだもん……



いつも不安でいっぱいなんだもん……



キッ…キスだって付き合ったあの日以来してないし……


ってか、カップルぽいこと一切してない……






「じゃあ、あたし教室帰るわ」



「えっ、もう?」



まぁ―もうさっき授業のチャイム鳴っちゃったしね……


これ以上、美羽を引き留めても悪いよね…



「それに、そんな不安がること無いと思うんだけどな―」



「えっ?」



そう言って屋上のドアを開け「遅いよ」と誰かに言って帰って行った




えっ、誰かいるの?



「うっせ。………花音」



「へ?棗っ?」




じゃあさっき美羽と話してたのって棗!?



美羽はいつから気づいてたの!?


「お前、授業サボるなよ。」



「棗だってサボってるじゃん。」



「俺は頭いいからいいの。」


隣に座りながらそう言った