幼なじみなんてッ!〜近くて遠いアイ・ラブ・ユー〜



「そんな花音に……棗は渡したくないっ!!」



一気にざわつく教室



なに……?花音に棗は渡したくない?



……そっか



そうだったんだ……


美羽が好きな人は棗で……



棗が思っている人もきっと……



あたしは泣いているのを隠すように、教室から飛び出していた



「花音っ!!」



誰かがそう呼んだ気がしたけど、それさえ無視して走り続けた




行く場所なんて決まってない


でもこんな顔、誰にも見られたくなくて、ひたすら走り続けた



息が詰まる



喉が痛く苦しい……




走って走って……行き着いた先は屋上だった



授業が始まったせいか、誰もいない……



…………よかった…



ここなら泣けるよね……?





「ッッ…うぅ……」



――ガチャ



屋上のドアの音に反応して、声を押し殺した



泣いて酷い顔をしているはずだから、誰が確認したかもわからず、振り向くこともできない……



「花音……」



この声って……



「………蓮」



「どうした?昨日、何かあったのか?」




蓮は昨日のことを知らないんだ……


ってことは棗は美羽だけに話したんだ……



一番仲のいい蓮じゃなくて……



美羽に……



「ッ…ウゥ…」



それが何故かなんて、もう何もかもが物語っている……




棗は美羽を好きなんだ………






「ウゥ…ッウ……」



涙が止まらない……



――ギュッ



………えっ



体中に感じる温かさ



「泣けよ……」



ギュッと抱きしめながら優しくそう言う蓮



「えっ…いいよ!大丈夫だか……」


「いいから泣けっ!!」



あまりにも強く言って抱きしめるから、離れることができない……




「お前は強がりすぎなんだよ。……ちょっとは頼れ」



その蓮の言葉で、体のすべての力が抜けたように、涙が流れ出してきた



「俺がいるから…。俺がそばにいるから……」




今のあたしには…この体温が必要だった……







『そんな花音に棗は渡したくない!!』



言い合いをしている花音たちを、クラス全員が見ている中での美羽の発言



な…何がどうなってるんだ……




頭の中が混乱している暇もなく、花音が教室から飛び出していた



か…「花音っ!!」



………えっ



俺が呼ぶ前に、花音の名前を呼んだ蓮



俺が止まっている間に、蓮は花音を追いかけていった



追いかけろっ!!


頭ではそう思っているのに、足が思うように動かない……




あんな必死な蓮は初めて見た



いつも女にはチャラくて、適当なあいつが……



花音のことになるとあんなになる……







その時、チャイムが鳴った



ハッとして、やっと足が動き、花音を追いかけた



もちろん花音の姿も、蓮の姿も見えない




でも…花音の行くところは何となくわかってしまう



花音…



花音!!



走って走ってやっとたどり着いた



こんなに必死に走るのは久々で、息が少し荒れる




たどり着いたのは屋上



何故かわからないけど、心臓がイヤに激しく動く



早くドアを開ければいいのに……



手が震える……



まるで開けるなと、拒否反応が起きてるように……







ドアノブをギュッと握って、ゆっくり開けた



「っっ!!」



なんとなく予想していた



でも心の隅で、ほんの少し期待してたんだ……



花音はこれからも俺のそばに、一番近くにいてくれるって……



でも……



今、一番花音の近くにいるのは…………



泣いてる花音を、ギュッと抱きしめてる蓮だった……





俺は何もすることが出来ないまま、静かにドアを閉めた



足がおぼつかなまま、教室に戻った



「あら。ダメじゃない!遅刻よ!!」



英語の授業が始まっており、甲高い女教師の声が頭に響く



俺はそんな教師の声をシカトして、席に座った






そんな俺に何も言わず、授業はまた通常通り流れた



でも授業なんて全く耳に入ってこなくて、頭の中で繰り返されるのは…蓮と花音が抱き合ってる姿



なんで………



なんでだよ!!



蓮はいつから花音のことを……



ずっと、ずっと俺が好きなのを知ってて……



それでもあいつは花音を思っていたんだ…





そして次の時間も、その次の時間も2人共に帰ってこなかった



美羽とも気まずくなって、一切話してないし………



こんな日が来るなんて、全く考えていなかった……






昼休みになり、いつもは蓮といる俺


でも今日はもちろん1人



美羽………



蓮…………



花音………



いつも一緒にいる存在なのに……



バラバラだ……



「棗……」



机に伏せていた俺の頭上から聴こえて声



「……蓮」



俺の前に立って、じっと俺を見ている




「今から話せるか?」



「……あぁ―…」



それだけ行って、2人で教室を出た






ついた先は屋上



またフラッシュバックするさっきの光景



「見てたんだろ?」



「は?」



「俺が花音を抱きしめてるとこ…」



「っっ…」



気づいてたんだ…俺が見ていたこと……



「れ……」


「俺、悪いことしたとは思ってねぇから」



俺の言葉を遮って、冷静に蓮がそう言った



「ふざけんな…」



ふざけんなよっ!



「何?別に花音はお前の彼女でもねぇだろ?」



ふっ、と軽く笑う蓮に、一気に頭に血が上る




「てめぇ〜―!!」



蓮の胸ぐらを掴み、壁に押さえ付ける