「親父に何か言われた?」
「…っっ。あたし棗に釣り合ってないの……」
「は?何言ってんだよ。……もしかして…それ親父に言われたのかよ?」
「あっ…その……」
どうしよう…。言うつもりなかったのに……
これじゃ棗の親が悪く思われかもしれないのに…
あたし…バカだ……
「やっぱり親父に言われたんだな。」
「ちがっ!違うの!!」
「何が違うんだよっ!!」
狭い観覧車の室内に響いた声
「あっ…ごめん。怒鳴って…」
ふぅ―と息を吐きながら棗が頭を抱えた
「なぁ―花音、俺のこと信じられないか?」
「えっ。違うよっ!そうじゃなくて…」
言えなかった……
棗がご両親を嫌ってしまうんじゃないかと思ってしまって…怖かった……
「花音…、俺を信じて……」
「棗………」
その時
「お疲れ様でした〜」
明るい男の人の声と共に、観覧車のドアが開かれた
先に下りた棗
あたしもその後を追うように下りようとした時
「んっ…」
そう言って手を差しのべてきた棗
「…ありがと」
そんな棗の手を、強く握りしめた
あたし…棗のことを信じていいよね?
うぅん…信じていたい。
そのまま手を繋ぎ、遊園地の中を歩いた
「花音……」
「ん?」
足を止めて、あたしをじっと見つめてくる
「俺、やっぱり花音のことが好きだ」
「………え」
今日は何度泣いても枯れない涙
まだ好きだって言ってくれる棗
あたしも伝えたい……
棗に……
あたしの気持ち……
「………き」
「…………」
「あたしもっ…棗のこと大好きなのッ―……」
泣きじゃくる子供のようで、みっともない。
そう心では思っているのに……
止まらない……
周りが見てるなんて、知らない……
恥ずかしいなんて、考えてられない……
ただ…棗にどうしても伝えたかった……
あたしの…精一杯の気持ちを―……
言葉を―……
「あたしもっ…棗のこと大好きなのッ―……」
ガヤガヤしてる遊園地も段々人が減ってきて、落ち着いている中で、鮮明に聞こえた花音の声
っツ……!
――グイッ
「きゃっ!」
涙を必死に拭く花音を引き寄せ、抱きしめた
「やっと取り戻した……」
「棗……?」
ボソッと口から出た言葉
でも、俺の本心……
ずっとこの腕の中にいてほしい。
他の奴なんて、見ないでいてほしい。
ただ…俺のそばに居てほしい。
たくさん願ってたことはあったのに……
“今、花音は俺の腕の中にいる”
その事実だけで、凄く幸せに感じた
すべて思い通りにならなくてもいい―…
ただ…俺から離れていかないでくれ……
俺の腕の中で泣きじゃくる花音
そんな花音が愛しくて…可愛くて……
さらに抱きしめる力を強めた……
遊園地を出てからもずっと、強く握りしめたままの手
「ねぇ―…棗。あたし、全部話すよ」
「えっ…」
「ちゃんと話す。」
真剣に俺を見る花音の眼差しは、俺が惹かれた一番の目をしていた……
「…実はね……」
ゆっくりと話をしていく花音
俺の両親が家に来たこと。
神谷の写真のことで伊沢のイメージが悪くなってること。
…みんなに頭を下げられたこと……。
……こんな辛いことを花音は1人で堪えてきてたんだ……
「ごめんね」
「なんで花音が謝るんだよ」
歩いたまま、うつ向きながらそう言った花音
「だって…棗の両親のこと悪く言ったような感じになっちゃって…」
あぁ―……
だから…か……
「だから俺に、話さなかったんだな?」
小さくコクンと頷いた
ほんと…こいつの相手を考えるところには頭が下がるよ
「バカだな」
「なっ!」
「だってそうだろ?自分が苦しい思いするってわかってて、その道を選ぶなんて」
「うぅ〜…だって……」
ふっ。本当はバカだなんて思ってない。
花音が困った顔するのだってわかる。
「まぁ、俺はそんなところに惹かれたんだったな」
「へっ?!///」
「やっぱり花音って面白いなぁ。」
「っッ!!カラかったのね〜!」
「カラかってねぇよ。」
プンッと完全に怒ってそっぽを向く花音
「だって、そのこと言ったら見合いの相手にキレられちゃったし。」
「……えっ」
「まぁ、正確に言うと、花音と違くて、お前に惹かれるものは何もないって言っちゃったせいなんだけどな♪」
「そっ…そんなこと言ったの?!」
「あぁ、言った」
「そんなすっぱりと…」
何とも言えない表情をする花音
「んだよ……。見合い、うまくいって欲しかったのかよ…」
「………え」
って俺何言ってんだよ!
ガキくさくないか?!
完璧に今の俺はガキだっ!
「ふっ…。なんか棗可愛い―」
ッつ!!
こいつ人が気にしてたことを〜〜!
「可愛い〜〜」
なんかだんだんイライラしてきた
「そっか―。花音は見合いうまくいってほしかったんだなぁ―」
「え゙っ…」
「じゃあ今からでも相手に返事を……」
「ダメ―っ!」
よしっ。言ったな。
心の中で小さくガッツポーズをした
自分でも顔がニヤけてるのがわかる。
「ふぅ〜ん。ダメなんだ?」
「だっ…だって///」
「だって?」
やべぇ―…なんか面白くなってきた
「………る…」
「ん?」
「棗の意地悪……」
「……っっ///」
涙目にしながら俺を見上げるように、上目遣いしてくる花音
――バッッ
顔を横に反らした
「棗?」
ヤバい!可愛すぎるっ!
不意討ちすぎだろっ!
狙ってんのか///?
そろーと花音を見ると「?」を浮かべてる
……なわけねぇ―か
それほど花音、器用じゃねぇし。
「ねぇ棗?」
「ん?」
必死に顔を冷やす俺
もう赤くないだろうか?
花音はいつ反則技がくるかわかんないからな…
覚悟して話を聞いていないと……
「そろそろ帰る?暗くなってきたし…」
そう言って俺を見つめた
帰る……?
「あぁ、そうだな。送っていくよ」
「棗は!?」
「は?」
「棗も…帰るんだよね?」
……あっ、やっぱりお見合いの時の言葉聞こえてたか……
「俺は……帰らない。」