席も隣……
家も隣……
居場所も隣……
誰よりも近い存在。“幼なじみ”
『幼なじみっていいよね。』
ってよく言われた
幼なじみのどこがいいの?
近すぎて、恋愛対象に見られないのに………
小さい頃から、誰よりも早く好きになったのに……
誰よりも長く片思いしてるのに……
幼なじみなんてッ!!
何もいいことない…………
「よっ。」
朝から玄関にもたれかかって待っているこいつ
伊沢棗 [いざわなつめ]
同じ高校に通っている、高校3年生
伊沢グループの御曹司で、あたしの幼なじみ。
「毎朝暇だね?車で送ってもらえばいいのに。」
あぁ―……
また可愛くないことを言ってしまった
もう癖としか言い様がないな……
「車で登下校してたら、体がなまっちまうだろ。」
「は?」
「一人で行くのも暇だし、遅刻の常習犯のお前でも、一緒に連れて行ってやろっかなぁ―と。」
憎たらしい笑顔を見せてくる
「別に待ってて。なんて頼んだ覚えはないんだけど。」
そんな棗に、やっぱり素直になれないあたし。
相村花音 [あいむらかのん]
棗と同じ、高校3年生
名前の頭文字が近いから、出席番号も近く、席も隣同士
親同士が仲がいいのもあって、家も隣同士
ちなみに棗のお母さんと、あたしのお母さんが学生の時の親友みたいで…
家まで隣に建てちゃったってわけ。
とにかく、昔から棗の隣はあたしだった
でも2人とも大人になるにつれ、違いが出てきた
あいつは伊沢グループの御曹司。
あたしの凡人な家の横に、不釣り合いな立派な家が建てられてる。
洋式の立派なお家…
その横は平凡な一軒家…
そして、勉強も学年トップ
あたしは……………とてもじゃないけど言える成績ではない…。
顔だって綺麗に整っていてカッコいいから、学校ではもちろん人気者。
告白なんてしょっちゅうで、学校では王子様的な存在。
小さい頃は気にしていなかったところが、大きくなるにつれ、ただの不安要素になった……
毎朝隣を歩いているのに……
この距離がとても遠く感じる
こんなことを考え始めたのはいつ頃からかな……?
「なぁ―。そういえば今日って、役員決めじゃねぇ?」
いつもと変わらない会話
「あぁ―そういえばそうだったね―。」
別にどうでもいいかも
「お前、何するの?」
「は?」
「役員だよ。役員。」
珍しいな―。棗があたしのことを聞いてくるなんて。
「ん―。特に考えてないけど、保健委員かな。昼休みとか、保健室使い放題で楽だし。」
「ふぅ―ん。そっか」
はあ?何?聞いときながらそれだけ?
もう少し何か言ってもよくない?
「棗は何する……」
「花音〜〜」
――ドンッ
「うわっ!!」
背中に感じるドシッとした重さ
「もぉ―っ!美羽っ!!」
振り向かなくても、誰かなんてわかる
毎朝毎朝、抱きついてくるのが美羽のくせ
間村美羽 [まむらみう]
高校生になってからの友人。
高校に入ってから同じクラスということもあり、すぐに仲良くなった。
今では無くてはならない、あたしの親友。
「だって―。花音の抱き心地、凄くいいんだも―ん」
そう言って、ムギュムギュと抱きしめてくる美羽
「それは太ってるっていいたいの?」
そりゃ―最近1キロ……いや…2キロぐらい、太ったかも知れないけど……
自分で言ってて悲しい……
さすがにダイエットしないとね。
「太ってるっていいたいわけじゃないよ―。ちょうどいい抱き心地っていいたいの」
誉めてるのか?貶しているのか?
「ってか、もうちょっと太ってくれてもいいのに♪」
なぬっ!?
もうちょっと太ればいい?!
「い―やっ。これ以上太くなりたくないっ!!」
このまま太り続ければ、本当に大変なことになりそうだし。
そりゃ―美羽は細くてモデル体型だからいいけど……
まだムギュムギュしてくる
毎日毎日、よく飽きないなぁ―…
――グイッ
「んぎゃっ!!」
襟元を握られ、後ろに引っ張られた
まるで動物かのような扱い
「なっ、何するのよ!棗っ。」
あたしの襟を引っ張ったのは棗だった
なんとなく、こんなことをするのは棗だと思っていたけど…
「別に。暑苦しかったから。」
「はあ?意味わからない。」
暑苦しいって何が?
「だから、暑苦しかったって言っただろ!」
ぎゃ、逆ギレぇ!?
「それが意味不明って言ってるの!!」
もぉ―っ、何なのよ!
「ふふっ。」
突然、怪しく笑い声が聞こえた
「な、何?美羽?」
ちょ、ちょっと怖いよ…?
「うぅん♪何でもなぁ―い♪ただ若いなぁ―って思って♪」
「……若い?」
「そう。若い♪ねぇ…?棗。」
「っっ……//」
怪しさを含んだそのセリフに棗が目を見開いて、美羽を睨む
ん?なんか取り残されてる気分