「棗……?」
そんな棗が心配になり、背中を向ける棗に触ろうとした瞬間
「触んなっ!!」
――ビクッ
反射的に手を引っ込める
「あっ…いや。違うんだ……。」
違う……?
違うって何が……?
あ、あたしが棗を拒否したから怒ってるの?
じんわり滲んできた目の前の光景
「ごめ…ごめんなさ…い…」
ポロポロ流れ落ちてくる涙を、必死に止めようとする
泣いたらもっとウザがられるかもしれない…
早く、早く泣き止まないと……
「ごめん。」
ふんわり抱きしめられる感触
「棗……?」
「泣かせるつもりは無かったんだ…。その…触られたら止まらないっていうか…」
………止まらない?
「ってか、今もいっぱい、いっぱいで……」
………見なくてもわかる
棗が真っ赤になってること…
「ごめん…。花音の心の準備が出来るまで待つつもりだったのに……焦ってしまって……」
ギュッと強く抱きしめる棗から、心地よい胸の音が聞こえる
「ちゃんと待つから…。本当にごめん、な。」
少し落ち込んだ顔で謝る
あたし…何を怖がっていたんだろう……
棗となら怖いものなんてないはずなのに……
勇気が出なかったんだ……
棗とのこの関係が壊れちゃいそうで……
どこかにかまだ“幼なじみ”という存在を引きずってた……
でもあたしは、ただの幼なじみなんかじゃイヤ……
「花音……?どうした?」
棗はこんなに1人で頑張ってくれてるのに……
「棗…。」
「ん?」
だから…ちょっとの勇気を出そう……
「さっきの続き……して…。」
ほんの少しの勇気を……
「なんか飲み物取ってくるわ…」
「あっ…ごめん……」
パタッとドアを閉め、台所に向かう
な…なんだ……?
何が起こってんだ……?
さっきの言葉って……
――――――――………
「棗…。」
「ん?」
「さっきの続き……して…。」
…………は?
今なんて……?
「か、花音?」
「もう大丈夫だから。だから…//」
そう言って頬を赤く染め、うつ向く
「んっ…んっ……」
気付いたらまた花音をベッドに押し倒し、唇を奪っていた
「なつ…め…」
あ……っ
俺は何をしてるんだ…
すかさず唇と押さえつけてた手を離す
これじゃあ、さっきと同じだ……
また怖がられてしまう……
「棗……「悪い…。また怖がらせて……」
「ち、違うの!!」
身体をパッと起こして俺をジッと見つめ、すぐに視線を反らす
「その…ここじゃ…ちょっと……」
そう言ってチラッと周りを見渡す
あっ……そっか……。
夢中になりすぎて忘れてたけど、ここって保健室か……
そうだよな……
「花音……」
「………ん?」
「…俺の家、来るか?」
「…っ//うん///」
……―――――――――
そんなこんなで、家に連れて来たのはいいものの……
どうするよ…。俺。
今まで花音しか見てこなかったから、“あれ”の経験ねぇ―し……
そりゃ、健全な男子高校生としてちょっとは知識あるけど……
…って俺!何、1人でこっぱずかしいこと考えてんだ?!
落ち着け……俺。
アップルジュースをコップに注いだ
2階にある俺の部屋の前で一時止まる
「はぁ―…」と小さく息を吐き、ドアを開けた
「はい。」
「あっ、ありがと。」
そう言ってコップを受け取る花音
「「………」」
沈黙……
おい!この場合はどうすればいいんだ?!
と、とにかくまずはこの沈黙をどうにかしねぇと。
「「あのさ」」
へっ?
今、ハモった……?
「棗から先にどうぞ」
「いや。花音から…」
「いや、棗から…」
「で、でも棗何か言おうとしたじゃん」
「花音だって、何か言おうとしてただろ?」
お互い譲らず言い合う
「「ふっ…」」
なんかいつも通りだ…
2人して笑い合う
「……花音…」
頬に手を置くと、目を閉じ俺のキスを受け入れた
「ふんっ…んっ……」
「花音…いい?」
少し頬を赤くして、コクッと小さく頷く
ヤバい……
可愛いすぎだろ…こいつ……。
花音をベッドに引き寄せ押し倒す
ゆっくりボタンを外して、肌に手を滑らしていく
ピクッと身体を震わせ、手で顔を隠す花音
「なんで顔、隠すの?」
「んっ…だって恥ずかしい……っ」
「恥ずかしいなんて…。俺も一緒なんだけど……」
「えっ…」
うそっ、という顔でパッと俺を見た
「あっ、やっと顔見れた」
「っっ///やっぱり騙したのねぇ―…//」
涙目で俺を睨むようにして見る花音
でもその目はとても、睨んでるようには見えなくて、不覚にもドキッと胸が高鳴った
いつもそうだ……
こいつといると、ペースが惑わされる
さっきの保健室でも、最初はからかってやろうとか、それぐらいの気持ちでいたのに……
あんな甘い声をあげるから―……
考えば小さい頃から、花音は思い通りにならなかったな―…
欲しいものは何でも手に入ったのに―…
花音だけはどうしても手に入らなかった……